忘れてた予定
月曜日の朝。
空は少し曇りがちで、教室の窓から差し込む光も、いつもより弱く感じられた。
春先未白は、松崎リオンと並んで登校していた。
雨の休日から二日ぶりの学校。少しだけ、懐かしい気持ちが胸に広がる。
「ねぇ、未白くん」
「ん?」
突然、声が横からかかった。
振り向くと、そこには野球部マネージャーの榎本楓が立っていた。
ジャージ姿で、今日も少し跳ねた髪が印象的だ。
「未白くん、ちょっといい?」
楓の視線は真剣で、いつもより少し鋭く感じた。
リオンが横で小さく笑う。
「先行ってて。後でね、未白」
「え、でも先輩に惚れちゃダメだよ?」
リオンは茶目っ気たっぷりに言うと、先に歩き去った。
未白は少しドキドキしながら、楓の隣に立った。
「え、未白くん。あの子と付き合ってるの?」
「たぶん……」
「たぶんって、なんなのよ」
楓の目が、さらに鋭くなる。
「それはさておき、なんで土曜日、練習に来なかったの?」
未白は言葉に詰まった。
(……土曜日……?)
ふと、記憶の中の空白がチラつく。
そうだ、土曜日はリオンと初デートをしていた。
「……すみません。忘れていました」
素直に答えると、楓は少し困った顔でため息をついた。
「もう……君は私がいないと部活に来れなくなっちゃったの?」
「そんなことは……」
「まあいいや。はいこれ、新しい予定表ね」
楓は予定表を差し出した。未白は受け取る。
「連絡先も交換しておく。明日は練習、来るんだよ?」
「はい……」
楓は小さく笑うと、3年の教室へ向かって歩き出した。
未白も、自分の教室へ向かう途中で、リオンの姿を見つけた。
「何の話だった?」
「……あのね、先週の土曜日に練習があったの。忘れちゃってた」
リオンは少し考え込むように黙った。
「未白くん、これから成績下がっちゃうかも……」
「うん、気をつける……」
リオンは少し強気で、笑みを浮かべながら言った。
「予定表、なくさないようにね!」
翌日、久しぶりに野球の道具を持って登校する。
カバンの重みも、グローブの感触も、どこか懐かしい。
少し不安だけど、少しだけワクワクする。
今日からまた、部活の日常が始まる。




