いつもの日常
雨音で、目が覚めた。
窓を叩く規則正しい音が、時間の流れを遅くしているみたいだった。
「……雨」
春先未白はそう呟いて、体を起こす。
「起きた?」
すぐ隣から、聞き慣れた声。
松崎リオンは、もう起きていたらしく、スマホを手にしながらこちらを見ていた。
「今日、雨だって」
「そっか……」
それだけで、外出の選択肢が消えた気がした。
「だからさ」
リオンはにこっと笑う。
「今日はお家デートね」
「……いつも、こんな感じ?」
「うん。いつもの休日」
いつもの。
その言葉が、少しだけ胸に引っかかった。
午前中は、一緒に料理をした。
リオンが主導で、未白は言われた通りに包丁を握る。
「猫の手だよ、猫の手」
「こ、こう?」
リオンは未白の手に、自分の手を重ねて直した。
「ほら、前もこうやって教えたでしょ」
「……そうなんだ」
分からないはずなのに、
体だけは、なぜか動いた。
出来上がった料理を並べて、向かい合って座る。
「いただきます」
「いただきます」
味は、ちゃんと美味しかった。
「未白が作ったからね」
「ほとんどリオンだよ」
「でも一緒に作ったでしょ」
それだけで十分だと言われているみたいだった。
昼を過ぎると、雨はさらに強くなった。
「早めにお風呂入ろっか」
「うん……って、え?」
特別なことのようで、
特別じゃない顔で言われる。
湯気の立つ空間は、思ったより静かだった。
「熱くない?」
「大丈夫」
肩が触れ合う距離。
未白は、目を伏せたまま考える。
(……これも、前から?)
聞く勇気は、なかった。
夜。
布団に並んで横になり、タブレットで映画を流す。
内容は、途中から頭に入ってこなかった。
雨音と、隣の体温。
「眠くなってきた?」
「……少し」
映画が終わる前に、画面を止めて、リオンは未白の方を向いた。
「ね」
「なに?」
リオンは、少しだけ間を置く。
そして
そっと、未白の頬に手を添えた。
驚く間もなく、額に、軽い感触。
一瞬。
「……っ」
「おやすみのキス」
それだけ言って、リオンは微笑んだ。
「前から、こうしてたよ」
「……そうなんだ」
「そう!リオンと未白はラブラブだから」
リオンは嬉しそうに微笑んだ。
未白の意識は、ゆっくりと沈んでいく。
眠りに落ちる直前、
最後に聞こえたのは、優しい声だった。
「今日も、ちゃんと一緒に過ごせたね」
それは本当に、
いつもの休日だったのか。
確かめる前に、
未白は眠りに落ちた。




