⭕ クレイスの憂鬱 1
──*──*──*── 惑星・キャスラビィ
──*──*──*── ノクターム大陸
──*──*──*── ノクタルルド公国
──*──*──*── 王都・ケンレイクバ
──*──*──*── 城下町・南エリア
──*──*──*── エルシムグレオ公爵令息邸
《 エルシムグレオ公爵令息邸 》とは、≪ エルシムグレオ領地 ≫を治めているエルシムグレオ領主である実父のエルシムグレオ公爵から、令息達に1軒ずつ与えられた屋敷である。
クレイスはエルシムグレオ公爵,エルシムグレオ公爵夫人との間に産まれた5男坊である。
25歳となったクレイスの下には実弟が3人もおり、8男兄弟だ。
上の兄達は既に結婚しており、既婚者で子供もおり、家庭を築いて暮らしている。
クレイスは未だ独身だった。
クレイスには交際をしていた彼女が居た。
19歳の時、流行り病で実妹のアスタシナを亡くし、意気消沈していたクレイス。
溺愛していた実妹が亡くなったにしても兎に角酷い落ち込みようで、後追い自殺でもしそうな状態だった。
そんなクレイスに歩み寄り、寄り添い、励まし、支えてくれたのが、マイリエンタだった。
マイリエンタは聖人のように誠実で、クレイスを献身的に支え、そのお蔭もありクレイスはアスタシナの死を乗り越える事が出来た。
クレイスにとってマイリエンタはまさに恩人だった。
クレイスはマイリエンタに惹かれていたし、マイリエンタはクレイスを慕い、好意を抱いていた。
クレイスとマイリエンタが付き合う事は、自然な流れだったのだろう。
婚約の準備も進んでいたが、武勲を上げたクレイスは騎士団団員長に就任されるや否や、今迄より遥かに多忙となった。
実父のエルシムグレオ公爵から功績の褒美として贈呈された《 エルシムグレオ公爵令息邸 》にも帰宅が出来ない程の多忙な日々に追われる毎日を過ごす事になる。
目まぐるしく過ぎる日々を過ごしながらも恩人であるマイリエンタには会えない分、手紙を出したり、贈り物をしたりと恋人として最低限の事はしていた──筈だった。
1ヵ月に1回,2ヵ月に1回,3ヵ月に1回の頻度でしか会えない状態が続く中、毎年の訪れる実妹の命日には連休を取り、実家の在る≪ エルシムグレオ領地 ≫へ帰省していた。
帰省した際には恋人のマイリエンタとも再会していた。
25歳になったクレイスは実母であるエルシムグレオ公爵夫人から、「 何時まで恋人で居るつもりなのか──。結婚する気は有るのか──。さっさとプロポーズをして婚約しなさい。所帯を持って安心させて! 早く可愛い孫の顔を抱かせて! 」と何かと煩──しつこかった。
母親に尻を叩かれたクレイスは、気が進まないまま婚約指輪を用意した。
実妹の命日に帰省した日、マイリエンタと再会する事になっている。
クレイスはマイリエンタに婚約指輪を差し出し、恩人であるマイリエンタにプロポーズをするつもりでいた。
然し、マイリエンタから告げられたのは、「 子供を授かったから別れてほしい 」の言葉──。
「 恋人として付き合ってはいたものの、手すら繋いだ事が無いのに、マイリエンタが私の子供を妊娠!? そんな事が起こりうるのか!? 」と激しく動揺し、パニクったクレイスだったが──、マイリエンタが身籠っている子供の父親はクレイスではないと言う。
一寸だけ「 ホッ… 」としたが、マイリエンタには内緒だ。
そんな訳で、婚約をしていなかった事もあり、あっさりとマイリエンタと別れる事になったクレイスは、マイリエンタにフラれる形で恋人を無くした。
恩人の女性にフラれたと言うのにクレイスは不思議とショックを受けなかった。
仕事に追われ忙殺される中で、マイリエンタに対する想いも消えてしまったのだろうか──。
取り敢えず、婚約指輪の出番は無くなった。
《 実家 》の在る≪ エルシムグレオ領地 ≫から≪ 王都 ≫の《 南エリア 》に在る《 エルシムグレオ公爵令息邸 》へ帰って来たクレイスは、私服に着替えて《 南エリア 》をブラブラしていた。
其処で見掛けたのが、300名近く居る救世主達の中でクレイスの目を惹いていた人物だった。
流行り病で亡くなった実妹の生き写しのように瓜二つの顔をした少女──。
髪色と瞳色は違うが、“ 双子 ” だと言っても疑われない程に似ていた。
《 王城 》で働いていてもクレイスには救世主達との接点は無いに等しい。
指示や命令が無ければクレイスが救世主と会う事は無い。
気になっていた少女が1人で《 南エリア 》を歩いている。
この時を逃してしまえば、声を掛けるチャンスは2度と来ないかも知れない。
クレイスは救世主の少女に声を掛けた。
《 南エリア 》で恋人とデートをする約束はしていなかったが、嘘を吐いた。
《 高級レストラン 》に食事の予約なんてしていないのに嘘を吐いた。
事実なのは、恋人にフラれた事──、《 南エリア 》に《 自宅 》が在る事──、自分にとって《 南エリア 》が庭みたいなモノだという事くらいだ。
そんなこんなでクレイスは、下位ランクで無属性の救世主である少女との接点を掴み取った。
騎士団団員達の話の中で偶に出て来ていた『 救世主なのに使えないから隔離されて居ない子として扱われている無属性の下位ランク救世主 』の少女は、1人で《 王城 》を抜け出し、《 城下町 》の《 南エリア 》まで遠出をする行動力の有るアクティブな子だった。
クレイスは “ テイナ ” と別れた夜から、“ テイナ ” の事を考えるようになっていた。
折角作れた接点を無駄にしてしまうのが嫌だったクレイスは、テイナと過ごす為に毎週土日,日日は必ず休むようにした。
団長,副団長,副団員長,団員達からは、大いに喜ばれたのは癪だったが、クレイスの優先すべき相手はテイナだった。
毎週土日には馬車を用意し、『 城下町観光 』としてテイナを馬車に乗せて連れ回した。
毎週日日は、テイナを楽しませる為に次の『 城下町観光 』の計画を立てる為に費やした。
クレイスにとっては騎士団の職務以外で、実に充実した日々を過ごせていた。
1年間、多忙でも楽しく過ごしていたクレイスだったが、ついにピンチが訪れた。
マイリエンタにフラれたて1年が経ったと言うのに未だに独り身を謳歌しており、恋人すら作る気の無い5男坊に対して、実母のエルシムグレオ公爵夫人が重たい腰を上げたのだ。
選り選りの令嬢達の見合い写真をどっさりと馬車に詰め込み、クレイスが暮らす《 エルシムグレオ公爵令息邸 》に来訪したのである。
──*──*──*── 客間
クレイス
「 母上、急に来られても困ります。
ゲリラ来訪する前に連絡をください 」
エルシムグレオ公爵夫人
「 連絡をしたら《 騎士団の寮 》に泊まって帰って来ないでしょう。
マイリエンタ嬢にフラれて1年間は、毎週土日,日日に休暇を取るようにしたそうじゃないの。
マイリエンタ嬢と付き合っていた時でさえ休暇はアスタシナの命日に合わせてだったのに──、急に毎週土日,日日に休暇を取るようなって…………期待していたのですよ 」
クレイス
「 期待…………とは? 」
エルシムグレオ公爵夫人
「 彼女ですよ!
新しい恋人が出来たのかと思って、ケイルと喜んでいたのよ。
それなのに、貴方と来たら──、彼女処か恋人も作っていないじゃないのよ!
貴方が何の為に毎週土日,日日に休暇を取るようなったのか調査させました。
その報告を受けた時の絶望感と言ったら── 」
クレイス
「 私を監視していたのですか!? 」
エルシムグレオ公爵夫人
「 当然でしょう!
報告を聞いたケイルはショックで寝込んでしまったのよ!
クレイス、貴方は25歳なのよ!
成人もしていない未成年の小娘を馬車に乗せて《 城下町 》を連れ回すなんて──、何時から少女愛好の変態になったのですかっ!!
エルシムグレオ領主の息子としての自覚は無いのですかっ!! 」
クレイス
「 ぐくっ………………それは誤解ですっ!
母上、テイナは確かに未成年で可憐な少女ですが──、≪ ノクターム大陸 ≫を救う為に異世界召喚された救世主さまなのです!
私は〈 大陸神ノクターム 〉に誓ってテイナに疚しい事はしていません!! 」
エルシムグレオ公爵夫人
「 そんな事は当たり前ですっ!!
由緒正しきエルシムグレオ公爵家の令息が、救世主さまに “ 手を付けた ” なんて広まってみなさい!
先祖代々のエルシムグレオ公爵家の家紋に泥を塗る事になるのですよ!!
連れ回している事も大問題なのよ! 」
クレイス
「 救世主さま達は、来月には《 フィールド 》へ出た実戦訓練が始まります。
テイナには実践訓練に必要となる装備品を買い揃える為にですね── 」
エルシムグレオ公爵夫人
「 救世主さまを名前で呼んでいるの?
随分と親しい間柄なのね。
装備品を買い揃えるのは、騎士団団員長の役目なのかしら? 」
クレイス
「 “ テイナ ” は渾名です。
救世主さまの本名では有りません。
確かに…………装備品を買い揃えるのは騎士団団員長の役目では有りませんが──。
私はテイナの役に立ちたいのです!
救世主さま1人1人には支援者が付いており、支援者から支援をしてもらえますが──、テイナには支援者が付いていません。
王族から装備品の用意はされていません。
《 フィールド 》には怪物だけでなく魔物も出現する危険地帯なのは母上も知っているでしょう。
何の備えも無い丸腰な状態で実践訓練に参加はさせられません。
私は自ら望んで、テイナの支援者として出来る事をする為に動いているのです! 」
エルシムグレオ公爵夫人
「 高級レストランで食事をする事もですか?
見晴らしの良い場所で景色を楽しむ事もですか?
美味しいスイーツ店で、スイーツを食べる事もですか?
支援者がする枠を越えた事もしているような報告も聞いていますよ! 」
クレイス
「 テイナは…………ランクEの救世主さまです。
無属性という事が発覚し、他の救世主さま達から離され、隔離された状態で過ごされておられます……。
他の救世主さま達と同様に人並みの楽しさを体験してほしいと思ってですね!
兎に角、テイナとは何も有りません!
それに見合いをするつもりも全く有りませんから、見合い写真は持ち帰ってください。
置いて行かれるつもりなら、全て処分しますので! 」
エルシムグレオ公爵夫人
「 本気で言ってるの? 」
クレイス
「 私はテイナの支援者としての活動を優先したいんです。
当分、結婚はしません。
可愛い孫は諦めてください 」
エルシムグレオ公爵夫人
「 クレイス!
貴方には弟が3人も居るのよ!
貴方が独身じゃあ、示しが付かないでしょ!! 」
クレイス
「 宿泊するのは構いませんけど、早目に帰ってください 」
エルシムグレオ公爵夫人
「 クレイス!
お待ちなさい!
未だ話の途中ですよ! 」
クレイス
「 これ以上、母上と話す事は有りません 」
クレイスは[ 客間 ]に母親を残して出る。
執事長と侍女長に母親が寝泊まりする部屋を用意するように指示を出すと[ 自室 ]へ向かった。
◎ 訂正しました。
帰省した際に恋人の ─→ 帰省した際には恋人の
分かれた夜から、─→ 別れた夜から、
名前呼びしているの? ─→ 名前で呼んでいるの?




