第8話:父の死の真相
記録は、予想以上に鮮明だった。
音声、映像、感覚までもが転送される“記憶映像”。
それは父――カイ・ブレイズが最後に残した、生の記録だった。
《これは極秘任務記録。カイ・ブレイズ、第零潜入班所属。
任務:アノマリス教団中枢への長期潜入、および情報の奪取。》
画面の中の父は、淡々と語っていた。
《教団の思想は想像以上に根深い。“痛みを許容せよ。記憶に抗うな。進化とは忘却の否定にある”――
連中は“黒の記憶”を崇拝している。あれを、神格として扱っている》
リタは、息を止めたまま画面を見つめる。
父は、ただの戦士ではなかった。
ノワールを“知り”、その根源に“耐え”、組織の奥底にまで入り込んでいた。
《しかし問題が生じた。俺の記憶に異変が現れ始めた。
……ノワールに触れすぎたせいか、“自分が誰なのか”が、曖昧になっていく》
映像の父は、自分の手を見つめていた。
その手が、かすかに黒くにじんでいるように見えた。
《もう限界だ。これ以上は持たない。だが、リタには真実を残しておきたい》
画面の中のカイが、こちらを――リタを、まっすぐ見つめた。
《リタ、お前がこれを見る頃、俺はもうこの世界にはいないだろう。
けれど信じてほしい。俺はノワールに屈したわけじゃない。
……俺は“選んだ”んだ。自分の記憶を、“最後の弾丸”に変えることを》
そこで、映像は途切れた。
リタは、何も言えなかった。
涙も、声も、出なかった。
「……お父さんは、ノワールになりかけてた。でも、それを自分で止めた」
クロエがそっと口を開く。
「記憶が暴走して、自我が消える前に……自分の命ごと、“封じた”んだね」
リタの隣で、ユリシーズが言った。
「カイ・ブレイズの最後の弾丸――それは、“自分自身”だった」
リタは、そっと両の銃に手を置いた。
「……受け取ったよ、お父さん。
あなたの残した“記憶”は、私が撃ち抜く。絶対に」
心に深く刻まれた“問い”が、今ひとつの答えへと姿を変える。
そして、その答えは――次の戦いへと続いていく。
(第8話・了)