第7話アノマリス教団の影
作戦室の空気は重かった。
ノワールの異常な活動、そして謎の少年・アインの出現。
それは、ただの敵対行為ではなかった。
あれは――意志を持った“記憶”だった。
「“僕がノワールだ”って……あの少年、どういう意味だったの?」
リタの問いに、司令官は深く椅子に腰を沈めた。
「……そろそろ話しておかねばなるまいな。“アノマリス教団”について」
部屋の照明が落とされ、ホログラムが展開される。
映し出されたのは、古びた記録映像だった。
祭壇、仮面の男たち、そして中央に立つ少年。
その顔は――アインに、よく似ていた。
「奴らはこう主張する。
“ノワールとは、人間の本質そのものであり、進化の導き手である”と」
「進化……?」
リタが眉をひそめると、司令官は頷いた。
「人間は記憶によって学び、記憶によって苦しむ。
だが、その苦しみこそが“魂の進化”だと、彼らは信じている。
つまり――ノワールを消す我々は、“退化”だとね」
重い沈黙が落ちる。
「……あいつら、マジで言ってんのか?」
クロエが信じられないものを見るように呟く。
リタは拳を握った。
「でも、放っておけば人が死ぬ。ノワールは現実に人を壊してる」
「そうだ。そして奴らは、それを“洗礼”と呼んでいる。
ノワールに飲み込まれる者は、“新たな段階へ至る者”だと」
「狂ってる……!」
レオの言葉に、司令官は頷いた。
「だが、問題はそれだけではない」
ホログラムが切り替わる。そこには一人の男の記録――
黒い軍服、銀髪、そして凛とした眼差し。名前は――
「……カイ・ブレイズ……!?」
リタの心臓が跳ねた。
「君の父親は、かつて“アノマリス教団の内部”に潜入していた。
我々のスパイとして、命をかけて」
頭が真っ白になる。
父が、敵の中にいた? ずっと、何も言ってくれなかったのに……?
「リタ」
ユリシーズの声が、静かに響く。
「父親の記憶を知る覚悟があるか? 今、扉が開かれようとしている」
リタは、震える指でホログラムに手を伸ばす。
「私は……知りたい。真実を。お父さんが、何を撃ち抜こうとしたのか」
黒の記憶の中心に、父の過去がある。
そして――アインは、父と何かを知っている。
物語は、リタの“記憶”を揺さぶり始める。
(第7話・了)