第6話:アインとの遭遇
ノワール2体との交戦は、想定よりも長引いた。
触手型は空間を跳躍し、獣型は咆哮で電磁妨害を起こす。
だがチーム・バレットの連携は完璧だった。
「ユリシーズ、上段!」
「狙いは完璧。撃つぞ」
リタの一撃で、触手型の頭部が破壊される。
同時に、クロエの火炎砲が獣型を焼き払った。
「……勝った」
レオが静かに息を吐いたそのときだった。
「そうやって、また“記憶”を壊すんだね」
場違いな声が、戦場に響いた。
高架の上――そこに立っていたのは、一人の少年だった。
白銀の髪、整った顔立ち。だが瞳には感情がない。
どこか、人間であることをやめたような空気があった。
「……誰?」
リタが銃を構えると、少年は両手を上げたまま、あっさりと答えた。
「僕の名前はアイン。記憶を守る者――“アノマリス”の代行者だよ」
「アノマリス……教団の関係者か!?」
レオが即座にスナイパーライフルを構える。
だがアインはまるで気にも留めず、ゆっくりと語った。
「ノワールは“人が生んだ記憶”だ。
それを“害”と呼び、燃やして、消して、忘れる……君たちは本当に、それでいいと思ってるの?」
その言葉に、リタの足がわずかに止まる。
「……記憶が、人を壊すこともある」
「じゃあ、人が人を壊すときも、消すの? 嫌な記憶も、悲しい記憶も、全部?」
静かな口調。だが、その瞳だけは鋭かった。
「……君は、ノワールと戦ってない。共にいる。なぜ?」
「だって、ノワールは僕だもの」
その瞬間――アインの体から、ノワールが溢れ出した。
彼の背後に広がったのは、無数の黒い“手”。怒りと悲しみに満ちた記憶の断片が、実体として形を成す。
「やっぱり、消すんだね。……なら、君たちも敵だよ」
アインは笑わなかった。
ただ、淡々と告げた。
「“最後の記憶”が壊れる前に、僕が君を止める」
黒の記憶が暴走を始める。
「撤退! 今は戦うべき時じゃない!」
レオが叫び、リタが即座に反応する。
「クロエ、後方! 煙幕! ユリシーズ、レメゲトン、射線遮断!」
「了解!」
「任せろ!」
爆発的な煙と熱が地形を覆い、チーム・バレットはその場を離脱した。
その背後、煙の中でアインは呟く。
「――リタ・ブレイズ。君も、“あの人の記憶”を継いでるの?」
(第6話・了)