第2話:リタ、部隊に入隊する
「――リタ・ブレイズ。特異記憶適性・Aランク。銃器適性・Sランク。
よって、本日付で“ヴァルハラ・ライン第七部隊”への配属を命ずる」
冷たい廊下、白い部屋、壁際に並ぶ武装職員たち。
リタは胸を張ってその真ん中に立っていた。制服はまだ仮のもの。けれどその目には一切の迷いはなかった。
「……ありがとうございます!」
強く言い切った声に、一瞬だけ部屋が静まり返る。
そして、その中心にいた初老の男性――司令官がふっと笑った。
「随分と元気だな。……噂通りだ」
「噂?」
「“喋る銃を従えた、あの英雄の娘”――とな」
リタの瞳がわずかに揺れる。
“あの英雄”――それは彼女の父、カイ・ブレイズ。
かつて“黒の記憶”から都市を救ったが、その代償として記憶を焼き尽くされ、命を落とした男。
その名を継ぐ者として、リタはこの部隊に志願した。
「私は……父の名前では戦いません。私の銃で、私自身が証明してみせます」
その言葉に、司令官は満足げに頷いた。
「よかろう。配属初日から出動だ。装備は支給済み。……銃は持参のようだが?」
「はい。“相棒”なので」
リタは腰の左右にさげた二丁の銃に手をかける。
「――ユリシーズ、レメゲトン。準備は?」
「当然」
「やっと仕事だな。待ちくたびれたぜ」
二丁の銃がそれぞれ異なる声で答える。
周囲の兵士がざわついた。実際に喋るAI武器、それも自律会話が可能なものは、既にほとんど製造されていない。
「……本物か。こりゃあ面白くなりそうだ」
部屋の隅で呟いたのは、これから同じチームになる少年――銀髪の狙撃手、レオ・ガーディアンだった。
この日、“チーム・バレット”が初めて顔を合わせた。
物語は、まだ始まったばかりだ。
(第2話・了)