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第3話:最初の任務と失敗

 ミッション名――【黒域探査0039】。

 対象エリア――旧第七環状区画、通称“記憶の空洞”。


 


 人類は、記憶を燃料として使う時代に突入していた。

 脳から抽出された記憶をエネルギーとして再利用する“記憶工学”の発達により、世界は大きな飛躍を遂げた。


 だがその進歩は、新たな“敵”も生み出した。


 


 記憶の中に潜む負の断片。

 怒り、悲しみ、未練――人々が心の奥に押し込めた“消したい記憶”が、時として暴走し、実体を持ち始めた。


 


 それが〈黒の記憶ノワール〉。


 


 記憶から生まれたそれは、形も意思も不明。

 人に取り憑き、精神を蝕み、時には肉体までも変質させる。


 


 黒域――すなわち、ノワールの集積地に立ち入ることは、

 「他人の死と記憶に踏み込む」ことに等しい。


 


 リタたち“ヴァルハラ・ライン”は、そのノワールを討伐するための特別部隊だった。


 


「……あんた、顔こわばってるぞ?」


 


 輸送車の中、クロエ・フランメが火炎砲“エクリプス”を背にのんびり笑っている。


 


「そんなことない!」


「まあ初任務だしね。けど、気を抜いたら一瞬で“脳焼かれる”から。気張れよ、隊長さん?」


 


 その言葉に、リタはぐっと拳を握った。

 彼女はこのチームの“現場指揮官”でもある。選ばれたのは、適性値が理由だった。


 けれど、覚悟は自分で決めた。


 


「……やる。ちゃんと、撃ち抜いてみせる」


 


 レオ・ガーディアンが、スコープ付きのライフルを肩に構えて言った。


「目標発見……ノワール。1体、いや……2体か。霧が濃くて読み切れねぇ」


 


 車が停止し、扉が開いた瞬間、ひりついた空気が肌を刺す。


 


「ユリシーズ、レメゲトン、やるよ!」


「了解」

「狩りの時間だな!」


 


 リタは駆け出した。

 双銃の光弾がノワールの胴体を穿つ――だが、それは思ったよりも硬い。


 


「!? 弾が通らない……!」


 


 直後、リタの死角から触手が伸びる。

 それは人の記憶から生まれた“痛み”の形。対応の遅れたリタの足を絡め取り、引きずり倒した。


 


「リタッ!」


 


 レオの狙撃が1体を吹き飛ばすが、もう1体が迫る。


 


「下がれえええ!!」


 


 クロエの火炎砲が火を噴き、リタの周囲を焼き払った。

 ノワールは撤退したが、完全な撃退には至らなかった。


 


 ミッション、失敗。


 


 帰投後、報告室にて。


 リタは立ち尽くしていた。自分の判断ミスが招いた失敗。


 


「……ごめん、みんな」


 


 小さな声で呟くと、腰の銃が優しく声をかけた。


 


「ミスを引きずるな。戦場では、それが命取りだぞ」


 ユリシーズの低い声。


 


「なぁに、次は外すなよ。おまえの弾は、まだ残ってるだろ?」


 レメゲトンの口調は、なぜかあたたかかった。


 


 リタはゆっくりと顔を上げる。


 


「うん。次は、絶対に当てる。――私の“弾丸”で、未来を撃ち抜く」


 


(第3話・了)

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