最終話:そして世界は再起動する
ザカリア・グリムが消えた。
記憶の殿堂は崩れ、世界の空が――静かに晴れていく。
黒の記憶は、もはや暴れ狂う力ではなかった。
悲しみも、怒りも、失ったものさえも――
“ただの記憶”として、静かに空気のように広がっていく。
リタは立っていた。
手には、もう声のしない二つの銃――ユリシーズとレメゲトン。
その重みは、今やただの金属の冷たさではなかった。
「ありがとう。ここまで、一緒に走ってくれて」
レオが背後に立ち、深く息をついた。
「……終わったな。まじで、全部」
リタは少しだけ笑った。
「ううん、“始まった”んだよ。今やっと、自分の足で歩ける」
数日後。
バレット司令部、屋上。
リタは報告を終え、空を見上げる。
かつてはそこに、世界の痛みが渦巻いていた。
でも今は、雲一つない青。
父、カイ・ブレイズは、
最期まで言葉を残さなかった。
だが、それでよかった。
彼の願いは、もう言葉ではない。
それは――リタという存在そのものに刻まれていた。
「私は“最初の弾丸”。
でも、もう誰かの引き金を待たない」
「これからは、自分で引き金を選ぶ。
痛みも悲しみも、全部背負って、それでも前に進むために」
空を吹き抜ける風に、かつての声が微かに重なる気がした。
――泣くな。まだ弾は残ってる。
リタ・ブレイズは歩き出す。
世界が変わったのではない。
自分が変わったのだ。
そしてその変化が、いつか世界を照らす一発になる。
これが、
彼女が放った――
「最後の弾丸(Final Bullet)」
(完)