第17話最後の弾丸(ファイナル・ブレット)
空が割れた。
記憶の光と闇が交差し、空間そのものが軋みを上げている。
リタ・ブレイズとザカリア・グリム。
「人の意志を信じる者」と、「人を記憶の枠に閉じ込める者」。
戦場は、教団本部上空――人工空間“記憶の殿堂”。
「君の感情は、欠陥であり、危険だ」
ザカリアの仮面の奥から、低く冷たい声が響く。
「私は、それを受け止めてくれた人たちと、ここにいる。
あなたの世界はただの支配。私は“選べる世界”を撃ち抜く!」
ユリシーズが応じる。
「全照準、揃ってる。リタ、迷いはあるか?」
「ないよ。……私がここまで来られたのは、あなたたちがいたから」
レメゲトンも唸る。
「最後の一発、残ってる。これ撃ったら……オレたちも限界だ」
リタはそっと銃を握りしめる。
「いいよ。だってその一発が、**“私の弾丸”**だから」
ザカリアが記憶兵を喚起し、次元を揺らす。
彼の能力は、記憶干渉による“現実の改変”。
リタの体に、過去の悲しみや喪失の感情が襲いかかる。
――クロエの死。
――父との別れ。
でも、そのすべてを、リタは乗り越えてきた。
「私は、私のままで、ここにいる。
あの人たちがいたから、今の私がある!」
ユリシーズとレメゲトンが、同時に発動する。
「リタ・ブレイズ。
オレたちはここで、引き金を渡す」
「撃て、“最初の弾丸”!!」
白光が走る。
ザカリアの仮面が砕け、記憶兵たちが瓦解していく。
そして、弾丸が彼の心臓に届く直前――
ザカリアは、感情のない目でつぶやいた。
「感情……それは、世界を歪めるノイズだ……」
「だから私は、そのノイズと共に歩く!」
弾丸が貫いた瞬間、空が澄んだ音を響かせた。
ユリシーズが、静かにリタの手から消える。
「ありがとうな、リタ……俺は……ここまでで十分だ」
レメゲトンも微笑むように言う。
「後は任せたぜ、相棒……オレの最期の爆炎だ」
リタの手に残ったのは、冷たい金属の塊。
もう、声はしない。
でもリタは泣かなかった。
「うん、ありがとう。……もう、私には“撃つ理由”があるから」
(第17話・了)




