16話終末の信仰(ラスト・ドグマ)
アノマリス教団――
世界各地の“黒の記憶”暴走事件の裏で、静かに広がってきた異端の思想。
記憶を排除せよ。
感情を削ぎ落とせ。
世界は「統制された記憶」で再構築されるべき。
彼らの教主、ザカリア・グリムは、ついに姿を現した。
漆黒の長衣。無表情の仮面。
その背後には、ノワールとは異なる“制御された記憶兵”たちが列をなしていた。
「リタ・ブレイズ。貴様の存在こそ、世界最大の異端」
司令部を通さず、強引に襲撃されたバレット本部。
レオが狙撃陣形を組む間もなく、敵の侵攻は本拠を完全に飲み込もうとしていた。
だが――リタは、一歩も引かない。
「私を連れていけば、“黒の記憶”を支配できると思ってるの?」
ザカリアは、静かに頷く。
「貴様はカイ・ブレイズが遺した、唯一の成功例だ。
黒の記憶に呑まれず、感情を持ったまま制御できる“媒体”」
「違う。私は“誰かの媒体”じゃない。私は、私だ」
ユリシーズが、リタの手の中で答える。
「ようやく言ったな。お前が俺の相棒で、俺はお前の武器。……それだけだ」
「ははっ、ここまで来たなら撃つしかねぇだろ!」
レメゲトンも叫ぶ。
ザカリアは仮面の奥で、冷たく言い放つ。
「この世界に、自由意志など存在しない。
感情は誤差。記憶は瑕疵。人間に必要なのは“統制”と“沈黙”」
「なら――」
リタは銃を構える。静かに、でも確実に。
「私は、“沈黙を破る弾丸”になる」
レオが後方から支援射撃。
「行け、リタ。これはお前の物語だ!」
白熱の交戦が始まる。
ザカリアの制御記憶兵たちが空間ごと押しつぶしてくる。
だが、ユリシーズの精密射撃が彼らの間隙を抜き、
レメゲトンが爆熱の直撃で突破口を開ける。
そしてリタは――その“道”を、自分の足で進む。
父が描いた“理想の未来”。
それを作るために、私はこの手で、間違った記憶を撃ち抜く。
そして、その記憶の先にこそ――
「新しい、自分だけの未来」がある。
(第16話・了)