第14話:リタの出生の秘密
アインの背後から放たれた“記憶の巨獣”は、牙と爪を振るいながら迫る。
「くるぞッ!!」
レオが即座に狙撃位置を取り、反撃の準備に入る。
リタは地面を蹴って、右へ大きく跳躍。
ユリシーズの精密射撃で敵の動きを封じ、レメゲトンの一点集中砲火で正面突破を狙う。
「ユリシーズ、背骨狙って! レメゲトン、胸元を焼き抜いて!!」
「了解!」
「任せな!!」
二丁の銃が火を吹き、黒の巨獣が悲鳴のような音を上げる。
だが――再生が早すぎる。
「……コイツ、記憶の集合体……!」
「撃っても撃っても“忘れられた感情”が形を取り直してくる。理屈じゃない」
その瞬間、巨獣の咆哮がリタの意識に直接突き刺さった。
視界が――白く、反転する。
――ここは、どこ?
白い部屋。冷たい空気。人工的な光。
その中央に、眠る自分がいた。
そして、モニターの前で誰かが言う。
《特異記憶適性、確認。遺伝情報に異常なし。被験体“R-BLZ”は安定》
医師の白衣。研究者の目。
その奥、硝子越しに、
――父・カイ・ブレイズが立っていた。
《……この子は、私が“選んだ記憶”だけで育てる。
忘れてほしくないものだけを、最初から“入れておく”》
《そんなことをすれば、人格は不安定に――》
《関係ない。この子は……“世界を撃ち抜く弾丸”になる》
場面が、変わる。
幼いリタが、銃を手に泣いていた。
ユリシーズとレメゲトンの音声が、慰めるように鳴る。
《泣くな、まだ弾は残ってる》
《お前が撃つなら、オレたちはどこへでもついてくぜ》
父が、そっと背を向けたその時の――冷たくて、どこか懐かしい背中。
――リタは、自分の意識に戻った。
レオの声が聞こえる。
「リタ!? 大丈夫か!!」
彼女は、息を乱しながら立ち上がった。
「私……作られたんだ……“弾丸になるために”」
黒の巨獣が再び咆哮する。
だが今度は、リタの中で何かがはっきりしていた。
「なら私は――その“選ばれた記憶”を、撃ち抜いて超えてやる」
レメゲトンが熱く震える。
「おいおい……やっと覚悟決まったかよ、“最後の弾丸”」
「いいえ、私は“最初の弾丸”。
この記憶の連鎖を、私が撃ち終わらせる!!」
黒の巨獣に、照準を定める。
引き金が絞られる。
――この弾丸は、誰のものでもない。
“私の記憶”でできた、私の意志の弾だ。
(第14話・了)




