第13話:黒の記憶の正体
――それは、ノワールではなかった。
黒域0401。
かつて研究都市だったその場所は、今は完全に“記憶に呑まれた”死の領域だった。
正式な任務ではない。
司令部には黙っていた。
発端は、数日前に匿名で届いたアノマリス教団のデータチップ。
> 「すべての記憶が、すべてを語る時が来た。
> 君の真実を知りたければ、“最初の記憶”に戻れ。
> そこに“アイン”がいる」
リタとレオはそれを見て、すぐに出撃を決めた。
もう一人――クロエがいない今、**チーム・バレットは“2人と2丁の銃”**で動く部隊となっていた。
「無断出撃、やっぱマズいよな……」
輸送艇の中、レオがぼそっと呟く。
「でも……“このままじゃ終われない”でしょ?」
リタの声は静かだった。
誰より強く、真っすぐで、それでいてどこか痛みを滲ませていた。
「クロエが命を懸けて守ってくれた背中だ。
だったら今度は、私たちがこの記憶を“撃ち抜く”番だよ」
廃墟に降り立ったその瞬間、空間が変わった。
空気はねじれ、音が反響し、記憶が流れるように浮かび上がる。
父の声、クロエの笑顔、自分の泣き顔――
“過去の記憶”が脳に流れ込んでくる。
「……これは、“干渉”?」
ユリシーズが即座に警告する。
「記憶反響領域。敵の意識フィールドに侵入した可能性がある」
そのとき、空間が静かに歪み、
少年――アインが姿を現した。
「よく来たね、リタ・ブレイズ」
背後にそびえるのは、巨大な“記憶の樹”。
黒い幹から伸びる無数の枝には、記憶映像が葉のように揺れていた。
「君に会えるのを、ずっと待っていた」
「アイン……これは何? これが、“黒の記憶”の正体なの?」
「そう。これが、世界が押し込めてきた“すべての忘却”の姿――
名前を与えられず、救われなかった記憶たちの“終着点”だよ」
アインの目は、どこか哀しげだった。
「ノワールは“敵”じゃない。拒絶された感情、忘れられた記憶……
それらが、“ここ”で形を持っただけだ」
リタが歯を食いしばる。
「でも、それが人を壊してきたのは事実よ。
私の父も、クロエも、ノワールと戦った」
「戦ったのは、“記憶を否定する社会”だ。
カイ・ブレイズは、それを止めるためにこの“樹の根”に、自分を封じたんだ」
「お父さんが……ここに?」
「そう。そして彼の意志は、今もこの樹に根を張っている。
君が来ることを、待っていた」
アインが、手を差し出す。
「君の記憶を、僕とつなげてみせて。
そうすれば、この世界が“どれだけ感情から目を背けてきたか”が分かる」
レオが低く構える。
「――リタ。こいつ、危険だ」
リタはゆっくり、レメゲトンに手をかけた。
「ごめん、アイン。私……“他人に記憶を読まれるの”、嫌いなの」
空気が、爆ぜた。
アインの背後に、漆黒の枝が伸びる。
その“記憶の樹”が形を変え、**“黒の巨獣”**となって襲いかかる――!
「レメゲトン、ユリシーズ、戦闘開始!」
「待ってたぜ!!」
「照準完了。撃ち抜け、リタ!」
思想の対立が、銃火とともに始まった。
(第13話・了)