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第12話:父からの最後のメッセージ

 クロエが残した火炎砲“エクリプス”は、完全に使用不能だった。


 砲身は溶け、制御核は焼き尽くされ――それでも、

 リタとレオはそれを丸ごと持ち帰った。


 


 二人とも、無言だった。


 


 夜。

 格納庫の隅、誰も来ない片隅に、小さな“弔いの場”が作られていた。


 


 リタとレオが並んで座り、クロエの砲を中央に置く。


 火はない。ただ静かに手を合わせるだけだった。


 


「最後まで、言わなかったな。怖かったろうに」


 レオの声は低く、かすれていた。


 


「……強がってたくせに、誰より人の痛みに敏感でさ」


 リタが微笑みながら、目を伏せる。


 


「私、クロエにいっぱい救われてた。

 それに気づくの、遅すぎた……」


 


 ユリシーズが静かに言葉を添えた。


 


「感情に強い者ほど、優しさを隠す。レメゲトンもそうだった。……クロエも、きっと」


 


 その時だった。


 火炎砲の破片の間に、小さなチップが挟まっているのを、リタが見つけた。


 


「……これ」


 


 焼け焦げたメモリカード。レメゲトンの制御用と一致する型番だった。


 レオが眉をひそめる。


 


「それ、レメゲトン用の……記憶封印チップじゃないか?」


 


 リタは理解した。

 これは、元々レメゲトンの中にあったものだ。


 そして、クロエが取り出していた。


 


「……この子、見つけてたんだ。

 でも、私に渡さなかった。……私が崩れるって、思ってたんだ」


 


 クロエの“優しさ”が、最後までリタを守っていた。


 涙が静かにこぼれる。


 


「……遺言みたいなもんだ。お前が“それでも前に進む”って決めたとき、

 開けろって、きっとそう思ってたんだろうな」


 


 リタは小さく頷く。


 


「ありがとう、クロエ。ちゃんと、見届ける。――あなたの分まで」


 


 チップを、レメゲトンの制御核に挿入する。


 音もなく、映像が起動する。


 


《リタ。これが、私の“本当の最後の記録”だ》


 


 そこに映るのは、父――カイ・ブレイズだった。


 強さを装わない、一人の“父親”の顔だった。


 


《レメゲトンは、私の感情を封じるために作った。怒りも、恐怖も、後悔も、全部。

 でも、本当はそんなもの、君に背負わせるべきじゃなかった》


 


 映像のカイは、ゆっくりと視線を落とす。


 


《君が笑って生きてほしかった。

 戦うより、守るより、ただ誰かと手を取り合っていてくれたら――それが私の願いだった》


 


 映像が、かすかに揺れる。


 


《でも君が今、それでも“誰かの隣に立っている”なら――

 レメゲトンを、もう“記憶の墓”としてじゃなく、“希望の弾倉”として使ってほしい。

 君の手で、君の声で、未来を撃ち抜いてくれ》


 


 映像はそこで途切れた。


 


 そして――沈黙していたレメゲトンが、静かに起動する。


 


「……ただいま」


 


 その声は、いつものように軽く、

 けれどどこか、深い静けさと悲しみを含んでいた。


 


「おかえり」


 


 リタはレメゲトンを両手で抱いた。


 


 クロエが守ったもの。

 父が遺したもの。

 それを全部、今、自分の手の中で感じていた。


 


「私はもう、迷わない。

 あなたたちの分も、ちゃんと未来へ連れていく」


 


 その言葉に、レメゲトンは笑ったように言った。


 


「じゃあ、最初の弾丸は……オレに撃たせろ」


 


(第12話・了)

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