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双子

希は、入学式からいきなり2週間も休んでしまった。

これは大きな躓きではないだろうか。

もう仲良しグループなんかもできちゃってるだろうし、勉強も始まっちゃってる。


死んでしまった私は、希と一緒に高校に行くことにした。

本来なら私も通うはずだったところだから見ておきたい。

それに、今の希から目が離せないし。


昨日たくさん泣いて吹っ切れたかもしれない。

それでも、2週間遅れで学校に行くのは不安だろう。


それに、あの日と同じ晴れ渡った空。

希はあの日の光景を連想しているんじゃないだろうか。


新しい高校生活に希望を抱いていたあの日、

私と喧嘩はしたけどそれはいつものこと。


高校に着いたら私と合流して、お互いのクラスを見て、

そう思いながら登校していた途中で見た私の姿……。


せめて見ずに済んでいたなら、と思ってしまう。

結構なグロ画像だったし。


私は、朝から希にくっついていた。

昨日大泣きしたせいで少し目が腫れぼったいけれど、それ以外は普通に見える。

からかいたいのにからかえない。


そして、あの日の私と同じ時間に家を出た。

私は、希の横を歩く。


浮いて行くこともできるけれど、やっぱり一緒に登校しておきたかった。


でも、希はいきなり違う方向に進む。

「?」と思ったけれど、そりゃそうか。

あの事故の場所は、まだ通りたくないよね。


この2週間、私はずっと希の傍にいたわけじゃない。

私もいろいろと考え、動いてみた。


私が死んだ場所にも行ってみた。

誰かがお花を供えてくれていた。


私が死んだことは、もう受け入れている。

それを見ても「優しい人がいるな」としか思わなかった。


でも、あれを希が見たらどう思うだろう。

私には想像もつかないよ。


私と希は、少し遠回りしながら高校に向かった。

徒歩圏内の高校に行けて良かった、なんて言い合ってたっけ。


一緒に歩いてるのに一言も話さないの、何か違和感。


でも、希は不安だろうな。

希は優しくていい子だけど、こんな時にパーッとクラスに溶け込めるタイプじゃないから。


いじめられたりしないだろうか。

勉強にちゃんとついていけるかな。

何かできることがあればいいのに。


希は、少しうつむき加減で歩いていく。


私が生きていたら話を聞くくらいできるのに、って

私が生きていたらこんな顔で歩いてないか……。


苦い思いで高校に着いた。


そんなに感動するほどのこともない。

中学校と校舎や運動場はあまり変わらない。

何だか寂しさを感じるだけだ。


知らない人が多い。

中学では知ってる人がたくさんいたけど、だから寂しいんだ。


私は、これから友達が増えることはないんだろう。


希は、職員室に向かう。

少し緊張した様子で扉を開け、自分の名前を言う。


すると、穏やかそうな30代後半くらいの女性の先生がやってきた。


「1年2組の担任の山崎塔子です。私があなたの担任よ。大変だったわね」


と希に優しく声をかける。


それから、ひたすら事務的なことを話していた。

今の希にはそれが一番いいと思う。


ここで「悲しかった?」「お姉さんが死んだ時どう思った?」なんて聞くような

デリカシーのない先生だったら、

これからの私はひたすら呪いをかける方法を探ることになっていただろう。


それから山崎先生は、希に


「じゃあ私と一緒に教室に行きましょうか。何だか転校生みたいだけど」


と言って笑いかけた。

希の緊張も少しほぐれたように見えた。


それから私も希と一緒に教室に行き、横開きの扉の隙間に潜り込んだ。


そうだ、この一週間の間で知ったこと。

私は結構細い隙間でも入り込める。


液体説がささやかれる猫みたいに、10㎝くらい隙間があればそこからスルッと入れるのだ。

壁を通り抜けることはできないけど、人間だった頃よりその点は便利になっている。


まあ幽霊なんだからそれくらいはできてくれないとね。


教室に入った時、好奇の目が希に向けられた。

一人だけ軽く手を振っているのは、希の中学時代からの友達だ。


私も会ったことがあるけど、その時はあまり良い印象はなかったな。

でも、あの優しい顔を見ると良い子なのがわかる。


私より希のほうが人を見る目はあったしな。


そうしてクラスを見渡してみると、あれは桜井君?

確か希が片思いしてた人だ。


一緒のクラスだったんだね。

これで希が元気になってくれたらいいな。


それから授業が始まった。

希は、わからないながらもとりあえずノートを取っている感じ。


私は退屈で仕方ない。

だから桜井君の近くに行ってじっと見つめてみる。


まあまあ顔は整ってるかな?

文系って感じだけど、確か希と同じ吹奏楽部だったはず。


吹奏楽部って結構体鍛えるみたいで、希も陸上部の私とあまり筋力とか体型とか変わらなかった。

だからこの人もそれなりに体力はあるんだろうか。


字はあまりきれいじゃないけど、私も人のことは言えない。


私よりは真面目に授業聞いてるな、偉い偉い。


と思って時計を見たらまだ20分しか経ってない。

あと30分も授業があるのか…しかも今はまだ1時限目。


やってらんな~い。


テストを受けることもないのに授業なんて聞いてられません!


窓が開いていたのでそこから外に出て、体育をしているクラスに混ざって時間を潰した。


走るスピードは生きてた頃と同じくらいかな。

でも、多分これ以上速くなることはないんだろうけど。


練習しても、筋肉が鍛えられたりしないよね、死んだんだもの。


でも、疲れることもない。

100m12秒8のペースでずっと走り続けられそう。


短距離だとあと一歩だったけど、長距離でこれなら一躍エースだね。

本当に、あと一歩だったな。


高校生になったらもっと速くなって……


あ、駄目だ駄目だ。

また後ろを向きそうになってしまった。


これからのことを考えなくちゃね。


なぜ私はここにいるのか、他に幽霊はいないのか、

私はどんな存在なのか、いろいろ検証してみないと。


そう思っているうちに1時限目終了のチャイムが鳴った。


私は、急いで希のクラスに戻る。


本当は少し怖い。

希が一人ぼっちで寂しそうにしているのを見るのは辛いから。


でも、さっきの(私はあまり好きではなかった)中学校時代の友達が希に話しかけている。

勉強が遅れている希に「一緒に勉強しよう」と誘ってくれている。


お前、いい奴だったんだな。

偏見持っててすまん。

ちょっと嫉妬心もあったんだ。


そして希、お前が好きな桜井君もちらちらお前のほう見てるぞ。


桜井君も希のこと気にしてるんじゃないの?

男子と話しながら、心ここにあらずって感じだ。


希の未来には、幸せが待っているように思えた。


私の分まで幸せになってね。

双子なんだし、希が幸せそうなら私も幸せな気持ちになれそうな気がするよ。



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