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家族

私は、希のことが大好きだ。

私と違って繊細で、いろんなことを考えている。


そんな希と話すのが、私は大好きだった。

私にはない視点で、いろんな人の立場に立って話す希を、同じ人間だとは思えなかった。


私たちは双子なのに、脳の構造から違うとしか思えないくらい、希はたくさんの視点を持っている。


悩み事があると、私は必ず希に相談していた。

そして、ほぼそれで解決してしまう。


エスパーなのかと思うくらい、希は他人の気持ちを理解できる。

希のおかげで、私はただの陸上馬鹿から優しい陸上馬鹿に格が上がった。

何かトラブルがあった時、希の言うとおりにしたら「あなたは私の気持ちをわかってくれる」などと言われて慕われた。


そんな希が、呆然としている。


今になってようやく気付いた。

希は、希みたいに優しい子は自分の気持ちを発散できていないんじゃないか。

他人の気持ちを慮るばかりで、慮ってもらうことはないのではないか。


そういえば、希から相談されたことはあまりなかった気がする。

好きな人の話はされたけど、隠し事をしたくなかっただけのような。


本当は希もいろいろ抱え込んでいたんだろうか。

気づいてあげられなかったのなら、ごめんね。



私は、希のことが大好きだ。

その希が、呆然としている。


お葬式が終わっても、泣くこともなく、ただ呆然と。



希は、学校に行っていない。


忌引きの期間を過ぎても、家から出ていない。


私は、希のことが大好きだ。


私は、希に何度も助けられてきた。


今の私は、ただの死人だ。

私を轢いた人には恨みはある。

でも、何ができるわけでもない。

私を轢いた奴が崖の端っこにいても、突き落とす力もないのだ。


希は、呆然としている。

死人の私には、何もできない。

私には、見ていることしかできない。

私には、涙を流すことさえできない。


どれだけ胸が苦しくても。

私は、希を見ている。

希が心配で、ずっと見ている。


お父さんもお母さんも希を抱き締める。

それでも、希は呆然としている。


私のお葬式から2週間が経っても、希は呆然としている。

誰もどうしていいのかわからない。

希はとてもいい子なのに、私は希が大好きなのに、希に迷惑なんてかけたくないのに。


私が早起きなんてしなければ、

私が希を怒らせなければ、

私が希と一緒に家を出ていれば、


私が、私が、私が。


希は、ずっと、膝を抱えている。

私もその横に座る。


希のこんな姿を見るのは初めてだ。

何か力になってあげたいのに、何もできない自分がもどかしい。

横にいる希を見る。

希は気づかない。


希にもたれかかってみる。

私のほうが今はずっと軽いと思うけど、希はとても弱々しく感じられる。


私はここにいるって伝えたいけど、その方法がない。

それでも私は、希に話しかけずにはいられない。

ねえ、あなたにはこれからの人生があるんだよ。

私のことなんて忘れてよ。

私は、もう…。


陸上も、アルバイトも、恋愛も。

希が好きな人の話をしてきた時、私は驚いたなあ。

陸上ばかりしてた私には、恋なんて縁遠くて。


確か、同じ高校だったよね。

嬉しそうに話してたじゃない。


ねえ、希はまだ生きてるんでしょ。

高校に行けば、楽しいことがあるよ。


ねえ!


ねえ!!


「希!!!!」



希が、こちらに目を向ける。


「お姉…ちゃん?」


…聞こえ、た?


希の視線は、微妙に私からずれている。

声のする方に顔を向けているという感じ。


でも、それだけでも十分だ。

言いたいことを言っておかなくちゃいけない。

私は声を大きくして叫んだ。


「希!大好きだよ!」


希の目に涙がにじむ。


「おでこにこぶがあっても希は可愛い!

すぐに許してくれなくても希は優しい!

そんな希が、私は大好き!」


そう言って、私は希を抱き締めた。


21g(仮)しかない私だし、希には私が見えていないだろう。

だから抱き締めても何も感じないかもしれない。

それでも、私が抱きしめたいんだ。


それから、希は大声で泣いた。

今まで聞いたことのないほどの声で。

その声を聞きつけたお父さんもお母さんも、私たちの部屋に、

「希の」

部屋に来て、泣いている希を抱き締めて、

3人で、

「家族3人」で抱き締め合って泣いていた。


私は、そこに、いないんだ。

私は……死んだんだ。


私はそれでも希が、お母さんが、お父さんが、大好き。

何かできることがあれば。

何かできることを探しながら。


だって、私はここにいる。

希に声を届けられた(と思う)。


なぜ私はここにいるのか。

他に私みたいな人はいるのか。

私以外の死んだ人もこんな風になっているのか。

いつまでこうしていられるのか。


希は、次の日から学校に行った。


とりあえず、私は希を見守りながら奇妙な「余生」を過ごそうと思う。



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