始まり
大きな音がした。
私は自分の身体からポーンと弾き出され、それを見下ろした。
電柱にぶつかった自動車。
そして、血塗れの「私」……。
私は、それをぼーっと空から見下ろしていた。
物音に気づいた近所の人が家から出てくる。
あ、藤森さんのおばちゃんだ。
お母さんと仲が良いのはいいんだけど、話が長いんだよね。
おばちゃんとお母さんが話し始めると晩御飯が1時間は遅くなる。
あんな姿の私を見られたくないな。
あ、必死で介抱してくれてる。
友達の娘が交通事故に遭ってるのを見たら、それが当たり前か。
私、何だかおかしいな。
どんどんその場所に人が集まってくる。
私より後に家を出た妹の希も……。
* * *
何気ない朝。
そして特別な朝。
抜けるようで変哲のない青空。
いつもより少し早く起きた私、「宇佐美真」は、今日から高校生になる。
子供は何かと窮屈だ。
何をするにも親の許しを得なくてはいけない。
高校生になったらアルバイトができるかな。
そうして自分のお金があれば、何でも好きなことができるかな。
いろいろと夢を膨らませていたら、ウキウキしてきてしまった。
歯も磨いたし、顔も洗った。
今日一緒に高校生になる双子の妹の希は、まだ寝ている。
希と私はほとんど同じ顔だが、中身は随分違う。
希は吹奏楽部で私は陸上部。
希はどちらかというと内向的で、私は外向的。
希は勉強ができるけど、私は……。
それに希は色の中では白が好きだけど、私は赤が好き。
私はくせっ毛で希はストレート。
だから私たちは、双子でありながらあまり間違われることがなかった。
赤っぽいものを身につけているのが私だ。
いつかその思い込みを利用して、何らかのトリックを仕掛けてやろう──。
そう一人でほくそ笑んでいる。
とにかくこれから高校生活が始まるということで、何となくテンションの上がった私は、希の身体をくすぐった。
「!!止めてよお姉ちゃん!」
身悶えしながら逃げようとする希。
うむ、愛い奴じゃ。
などとふざけていると──
ゴン!
と大きな音がした。
「いったーい!」
希が大きな声を上げる。
見てみると、おでこが赤く腫れ上がっている。
「ごめん」
と言いつつも、つい吹き出しそうになる。
そんな私を見た後に鏡を見て、希の目が吊り上がる。
「どうしてくれるのよ、今日入学式なのに!
初日からおでこにこぶなんか作ってたら、あだ名が大仏さんになっちゃうじゃん!」
起き抜けのテンションもあって、そこでつい笑ってしまった。
そんな私を希が許すはずがない。
「もう、お姉ちゃんなんか嫌い!」
そう言って希は洗面所に行く。
その間に私は両親のいるリビングへ。
「おはよう!」
爽やかに(自分ではそのつもり)そう言って私は食卓につく。
「あら、早いのね」
「今日から高校生だし」
私は大人ぶってそう言った。
「テンションが上がっちゃったんでしょ」
……それじゃ遠足に興奮してる子供じゃん。
何となくテンションの下がった私は、トーストを口に含んだ。
そこに希もやってくる。
「やだァ希、おでこどうしたの?」
母が弾けるように笑いながら希のおでこを指さす。
おお母よ、あなたは明るくて良い人だが、もう少しデリカシーというものを持ってくれ。
そんな母の様子に、希の怒りが増幅されていくのを感じる。
「お姉ちゃんなんか嫌い!」
同じ言葉が、さっきよりも重くなってのしかかる。
「ごめんね、希」
「許さない」
「ねえってば」
「うるさい」
取り付く島もない。
「そんなに怒ってる?」
「後に尾を引くほど怒ってないけど、今は顔も見たくない!」
「学校着く頃には機嫌直ってる?」
「直ってるけど、クラスの子に笑われたらまた思い出して怒る!」
「じゃ、じゃあ校門のところで待ち合わせね。クラス発表一緒に見よう。
笑う奴がいたらお姉ちゃんが守ってあげる」
「お姉ちゃんは一緒になって笑うでしょ!」
「今日は絶対笑わない、悪いと思ってる」
「笑ったらハーゲンダッツ3個だよ!」
「うんわかった、後でね」
「後でね!」
こうして私は、怒れる妹を置いて先に学校へ向かった。
クラスにはどんな子がいるかな。
アルバイトしたいけど陸上部は忙しいかな。
高校生になったらタイム伸びるかな。
などと考えていると体が勝手に小走りになる。
そして、曲がり角に差し掛かった私は──。
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