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第8話 星の記録者と静かなる村

薄靄うすもやの中を歩く。森の木々は高く、地面には苔がびっしりと広がっていた。

鳥の声も風の音も、ここではくぐもって聞こえる。


「……ねえ、お兄ちゃん。どこまで歩くの?」


「あともう少しだと思う。地図では、この森を抜けた先に村があるはずだって」


蒼真は、背中の荷物を肩にかけ直しながら歩き続ける。

凛花の手を握るその手には、かすかに汗が滲んでいた。


(“星詠み”の力が目覚めてから、凛花の気配を感じ取る存在が増えた。ここ数日は、追手こそ来ていないけれど……)


森の奥深く、少しでも足を止めると誰かに見られているような錯覚に陥る。


(できるだけ人目のない場所で、少しでも休めるところが必要だ)


そんな考えが頭をよぎっていた時だった。


――コツン。


凛花が小石につまづいた。


「あっ……!」


「大丈夫か!?」


すぐに蒼真が抱きとめ、凛花の膝を見た。


「ちょっとすりむいただけ……」


「でも赤くなってる。座って、手当てする」


蒼真は荷物から小さな包帯と薬草のペーストを取り出した。

すでに慣れた手つきだった――それは、これまでに何度もこうした傷を負いながら旅してきた証でもある。


「ごめんね、足引っ張ってばかりで……」


凛花がぽつりと言うと、蒼真は包帯を巻きながら、笑って言った。


「引っ張ってるのは俺の方だよ。……でも、ありがとう。ちゃんとついてきてくれてるから、俺も頑張れるんだ」


凛花は、照れたように「うん」とだけ頷いた。

 


それからしばらく歩いた先。霧が晴れたように森の空間が広がる。


そこにあったのは、斜面に沿って建てられた木造の家々と、のどかに煙を上げる煙突の数々。


「……村?」


「みたいだな」


蒼真と凛花は視線を交わし、村へと足を踏み入れた。



その村の名は、《ロエン》。

“忘れられた村”と呼ばれていた。


かつては帝国と交流もあったというが、ある大戦以降、地図からも消え、人々の記憶からも風化したという。


しかし今でも、少数ながら人々が自給自足の生活をしている。


「……あの、すみません!」


蒼真が声をかけたのは、薪を抱えた老婆だった。


「ほう、お前さんたち、旅人かね。こんな辺境まで来るとは、物好きじゃのう」


「……少し、休ませてもらえませんか。妹が怪我してて……」


老婆はふと凛花の顔を見て、優しく微笑んだ。


「……その目、昔見たことがあるような……いや、気のせいか。まあよい、おいで」


老婆の案内で、兄妹は空き家の一室を借りることになった。


村人たちはよそ者には慎重だが、敵意は感じられなかった。

むしろ、静かなこの村には、どこか“外の世界と切り離された”空気が流れていた。



夜。焚き火の音。

ふたりは毛布にくるまりながら、火を囲んでいた。


「……お兄ちゃん」


「ん?」


「ここ、ちょっと好きかも。空が近いし、星もきれい……」


「……ああ、俺もだ。ここなら、少し休めるかもしれない」


その瞬間、空を見上げた凛花の目に、流れ星が飛び込んできた。


「……!」


だが、その星は――途中でふっと消えた。


 

それを見た老婆が、ぽつりと呟いた。


「……あれは“記録者の星”じゃよ。かつてこの世界を記録し、見守った者たちの名残。

 この村には、そういう者が残した“記憶”がある。……お前さんたち、星に縁があるようじゃの」


蒼真と凛花は目を見合わせた。


そしてふたりの旅は、新たな局面へと静かに進み始めていた。

読んで頂きありがとうございます。

『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。

ぜひ感想や応援などもらえるととてもうれしいです!

これからもよろしくお願いします!

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