第7話 逃避行の始まり6
風が、再び静かに吹き始めていた。
凛花は、蒼真の背中におぶわれながら眠っている。小さな寝息と、時折ぴくりと動く手が、まだ子供らしい夢の中にいることを示していた。
蒼真は、歩く足を止めなかった。
戦いの後に残ったのは、疲労と疑問と、そして確かな“変化”だった。
「星詠み……ルミナリア……」
凛花のあの変化――明らかに、常人の力ではなかった。
しかし、今は問いただすことよりも、彼女を守ることが優先だった。
森を抜ける頃、薄明の光が地平線に差し始めた。
夜が明ける。長い逃避行の一日が、ようやく終わろうとしていた。
時を同じくして。
帝国。王都・セリオラ。
その中心部、王城とは別に存在する“星の塔”の最上階。
白く無機質な空間の中央。王座のような椅子に、ひとりの男が座っていた。
顔は仮面に隠されている。
表情も、声の温度も、すべてが読み取れない。
だがその存在は、まるで闇の心臓のように――
沈黙の中でもすべてを支配していた。
「……“影の従者”からの報告。星詠みの反応、確認。……少女は覚醒寸前か」
部屋の隅に控えていた側近の一人、フードを被った青年が頭を下げた。
「仮面の王よ。我らの計画に狂いはありません。凛花……“第十二の観測者・ルミナリア”が完全に覚醒すれば、我が帝国の“星環計画”は最終段階に移行します」
「ふむ。……だが、想定よりも早い」
仮面の王は、椅子から立ち上がった。
「予兆は既に揃っている。“星の断片”が散り、世界は古き記憶を思い出す。
ならば我々は、それを“支配”するものとならねばなるまい」
「……それでは、“計画”を加速させますか?」
「否。今は“観察”の時。……あの少年、蒼真とやら。
彼は凡庸な庶民に見えて――“星の剣”を起動させた」
「……まさか、“星使い”が再び現れるとは……」
「世界が動く時、必ず“記録者”が現れる。
その少年は記録者か、それとも破壊者か――いずれ分かるだろう」
王は、静かに仮面を撫でた。
「……星詠みと星剣、兄妹の逃避行。
その結末が、世界を導くならば――見届けてやるとしよう」
彼の背後、巨大な鏡面が揺れ始めた。
鏡の中には、蒼真と凛花が歩く姿が映っている。
仮面の王は、そこに向けて一言、囁いた。
「さあ、少年よ。“家族を守る”ということの意味を――教えてくれ」
夜が明けた森の道。
蒼真は小さな丘の上で足を止め、朝の空を見上げていた。
「……なあ、凛花」
「ん……なに……?」
目をこすりながら起きた妹に、蒼真はふっと笑って言った。
「空って、広いな。俺たち、あんな遠くまで逃げてきたんだなって思ってさ」
「うん……でも、こわくなかったよ。お兄ちゃんがいたから」
その言葉に、蒼真は少しだけ目を細めた。
「そっか。……じゃあ、これからも一緒に逃げよう」
「逃げるだけじゃ、つまんないよ?」
「……そうだな」
凛花の言葉に苦笑しながらも、蒼真は前を見据える。
「ただ逃げるんじゃない。――俺たちの足で、“家”を見つけに行くんだ。
誰にも壊されない、二人だけの場所を。……必ず」
朝の陽が、兄妹の背中を照らしていた。
そしてその光の中で――凛花の小さな手が、蒼真の手をそっと握る。
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