第72話 黄昏の帝都へ4
帝都アルガルドは今、静かな嵐の中にあった。
帝国上層部の中で何かが動き出している――それを街の空気が告げていた。
「……兵士の数が増えてるな。道を封鎖してる通りもある」
蒼真は、頭巾を深くかぶって街の様子を探っていた。
凛花はその隣で、小さく囁く。
「お兄ちゃん、わたしたち……見つかったのかな……?」
「いや、まだだ。だが時間の問題かもしれない」
兄妹が礼拝堂で得たクロエの記憶は、ただの思い出ではなかった。
それは“記録された魔術”でもあり、帝国の中枢が何をしようとしていたのかを知る鍵でもあったのだ。
蒼真は短剣を懐に仕舞い、目を細める。
「クロエが命を賭けて残してくれたもの……絶対に無駄にはできない」
だが、そんな彼らの前に、突然ひとりの男が現れた。
「よう。あんたら、少し急ぎすぎたんじゃないか?」
フードをかぶった長身の男。
片目に眼帯をつけ、腰には二振りの細身の剣。
年の頃は二十代後半か、だがその空気は歴戦の剣士のものだった。
「誰だ?」
「名乗るほどの者じゃないさ。ただ……帝国があんたたちを狙ってるのは事実だ。
手を貸してやれるかもしれん」
蒼真は警戒の色を解かずに言葉を返す。
「“貸し”ってのは、どんな条件だ?」
「条件? ああ、そうだな。今すぐじゃなくてもいい――だが、あんたに剣の“本質”を教えてやりたい。それが俺の望みだ」
「……剣士か」
蒼真の目が細まる。
その一瞬の目つきで、男もまたニヤリと笑った。
「俺の名はヴァルト。帝国にいた剣の教官だ。もう抜けたがな」
その名に、蒼真は小さく目を見開く。
かつてヴァイスから聞いたことがある――“ヴァルト”、帝国最強の剣士のひとりと謳われた存在。
「なんで……そんな奴が俺たちに?」
「お前の剣筋が面白かった。あいつ――ヴァイスの弟子だろ? なら、見過ごせねぇよ」
その瞬間、背後から爆音が轟いた。
兵士たちがこちらに迫ってきている。魔導兵が混じっているのか、魔力の気配が尋常ではない。
「選べ。ここで戦って散るか、俺と来てもう一度立ち上がるか」
凛花が蒼真の腕をぎゅっと握る。
「お兄ちゃん……!」
蒼真は静かに、頷いた。
「案内しろ。俺たち、まだ終わってねぇからな」
ヴァルトが笑い、背を向ける。
「そうこなくちゃな。始まりの剣は、まだお前を見放しちゃいねぇ」
帝都の裏路地を走り抜ける三人の姿。
その背後で、帝国は着実に包囲網を狭めていた。
――だが、それでもなお、兄妹の目に宿る光は、消えることはなかった。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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