第65話 剣の谷へ7
戦いの余波がようやく静まり、谷の風がふたたび穏やかに流れ始めた。
蒼真と凛花は、簡単な手当を受けながらヴァイスの庵で休んでいた。
「……凛花、もう大丈夫か?」
蒼真が心配そうに覗きこむと、凛花はにこっと笑って小さく頷いた。
「うん、平気。おにいちゃんの魔力、あたたかかったよ」
その言葉に、蒼真の頬が少し赤くなる。
凛花の魔法は確かに力強くなっていた。だが、それ以上に“心”が強くなっていることに彼は気づいていた。
ヴァイスが薪をくべながら、ぽつりと口を開く。
「お前ら、本当にこのまま谷を出るつもりか?」
「……え?」
「帝国が放った“牙持ち”を退けたのは大したもんだが、それはあくまで“前触れ”に過ぎねぇ。奴らがここにお前たちを追い込む理由――おそらく、お前の妹に関係してる」
ヴァイスは凛花をじっと見つめた。だが、その目は責めるものではなく、どこか哀しみを含んだものだった。
「“記憶を読む力”と、“共鳴の魔法”……普通じゃねぇ。だが、それを悪用しようとする連中は間違いなくいる。帝国だけじゃねぇ、この大陸には、そういう連中がごまんといる」
蒼真は唇を噛み締めた。
「でも、俺たちは逃げない。凛花を守るって決めたから……そして、強くなるって決めたから」
ヴァイスはふっと笑った。
「言うと思ったよ。……なら、教えておくことがある」
そう言ってヴァイスが出したのは、一枚の古びた地図と、黒ずんだ金属片だった。
金属片には、剣と天秤を模した紋章が刻まれている。
「“アルトメリア王国の旧紋”……?」
「昔の帝国の前身、“七王国”の一つだ。この谷には、そのうちの一つの遺跡がある。かつて、“天秤の剣”と呼ばれる神剣が眠っていた場所……」
「もしかして、まだ中に?」
「あるかどうかは分からねぇが……最近、遺跡の魔力の流れが乱れてきてる。それに目をつけたのが、帝国の“黒羽部隊”さ。奴らがこの谷を狙う理由のひとつだろうな」
凛花が手を握りしめて言った。
「それなら……わたしたちで、先にその遺跡に行けば……?」
ヴァイスは静かに頷いた。
「それが、たったひとつの道だ。……だが、気をつけろ“遺跡”は、剣だけじゃない。知恵を試す“罠”と“謎”が、お前たちを待っている」
蒼真は深く頷いた。
「行こう、凛花。俺たちなら、きっとやれる」
「うん。ふたりなら、怖くないもん」
こうして兄妹は、再び歩き始める。
“剣の谷”に眠る、古の秘密へと――。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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