第63話 剣の谷へ5
――風が、止まった。
ガルザークと蒼真が向かい合ったその場には、重く張り詰めた空気が満ちていた。
凛花はすぐ後ろで、震える手で杖を握りしめながら兄の背中を見つめている。
「剣士気取りか。だが、所詮は小僧の真似事……!」
ガルザークが踏み込み、双剣が稲妻のように奔った。
「くっ!」
蒼真は瞬時に剣を振るい、防御に徹する――が、その一撃は重かった。剣越しに伝わる衝撃で、体が地面に押し戻される。
(……やっぱり、強い。でも……っ!)
蒼真は足を踏みしめ、反撃に転じる。
谷での修行の成果は確かに彼の体に刻まれていた。
「《風閃》!」
風を纏った踏み込みと同時に、刃がうなりを上げる。
かつてメリアの魔法と連携して放った技を、単独で再現する――それが蒼真の成長の証だった。
「ほう……少しはやるようになったか!」
ガルザークは片方の剣で受け流し、もう一方の刃で切り返す。
蒼真もとっさに反応し、《空駆け》で距離を取り、凛花を庇うように立ちふさがる。
「逃げるな。守るだけでは、何も変わらんぞ」
「……違う。守るだけじゃない。僕は――戦って、守る!」
蒼真の瞳が蒼く光る。
その瞬間、彼の剣がふるえるように輝いた。かつてクロエが使ったあの技――記憶の中にあった煌きが、形を成す。
「《蒼光剣・閃》――!」
疾風のような動きから放たれた斬撃は、夜の闇を切り裂くように一直線に走った。
ガルザークの肩を掠めるその一撃は、確かに彼の動きを止める。
「なに……この小僧……!」
その一方、谷の入り口ではヴァイスと“漆黒の牙”の部隊が激突していた。
「こんなもんか、帝国の牙ってのはよォ!」
ヴァイスの剣が風を裂く。無駄のない剣筋と圧倒的な力。まさに“鬼哭”の異名を持つ剣士にふさわしい戦いぶりだった。
「ここは通さねえ。あいつらは、やっと一歩踏み出したばかりなんだ。だから――俺が護る!」
彼の咆哮と剣閃が、谷の静寂を切り裂いていく。
その頃、蒼真とガルザークの戦いも終盤を迎えていた。
ガルザークは、片膝をついて蒼真を睨みつける。
「まさか……この俺を、ここまで追い詰めるとはな……!」
「もう俺は、ただ“逃げるだけの兄”じゃない……!」
蒼真は息を切らしながらも剣を構える。
その背後に立つ凛花は、兄の背中を見つめ――その小さな手に、静かに魔力を込め始めていた。
「兄さま……わたしも、戦えるよ……」
彼女の瞳が、淡く光り始める。
――兄妹の力が、交わろうとしていた。
そして、再び戦場が燃え上がる。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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