第61話 剣の谷へ3
岩壁に囲まれた修練場に、蒼真の息づかいが響いていた。
朝から始まった訓練は既に日が高く昇るまで続いていた。ヴァイスは一切の妥協を見せず、木剣による打ち合いの中で蒼真の技術、体力、そして意志を測っていた。
「剣を振るっても振るっても……重いっ……!」
蒼真は肩で息をしながらも、一歩も引かず立ち続ける。汗が額から流れ、木剣を握る手が震えていた。それでも、心が折れることはなかった。
ふと、ヴァイスが構えを解いた。
「……少し休め。だがその前に、一つだけ確認する」
「……はい」
「“記憶の力”……お前の妹に宿る力は知っている。だが、お前の中にも、それに呼応する“何か”があるはずだ」
蒼真は、驚いたようにヴァイスを見上げた。
「俺はな、剣士の“気”を見る目だけはあるんだ。お前は、ただの素人じゃない。戦いの最中に、一瞬だけ“記憶にない型”を使った。あれは……お前自身の力じゃない」
蒼真ははっとして、頭の中を巡らせた。
(……あの瞬間、クロエが教えてくれた動きとは違う……でも、なぜか自然に体が動いた)
その瞬間――
ふと脳裏に、剣を振るう誰かの背中が、まるで幻のように浮かび上がる。
それは、以前どこかで見た記憶……ではない、もっと深く、心の奥に根付いた記憶だった。
「……僕……誰かの剣を、覚えてる……?」
「その通りだ。お前の中には、受け継がれた“剣の記憶”がある。それを引き出せれば、お前は数段階、上の力を得ることができるだろう」
ヴァイスは木剣を蒼真に突きつけた。
「目を閉じろ。そして思い出せ、“お前の剣”がどんなものか」
蒼真は静かに目を閉じ、深く息を吸う。
――カンッ。
次の瞬間、木剣が弾けたように閃き、風が流れる。
蒼真の手が自然に動き、足の踏み込みと共に剣を斜めに振り抜く。
それは、力と技が融合した一撃――かつて見た記憶をなぞるように、完璧な型だった。
「……“残影の型”……これは……!」
ヴァイスの目が見開かれる。
「お前、やはりあの流派か……。まさか、こんなところに残っていたとはな……」
「知ってるんですか? この型を……!」
「名乗るほどの家も流派も、もう地に消えたと思っていたが……。ふっ、おもしろい。お前には、眠れる血と記憶がある。鍛えがいがあるぞ、蒼真」
そう言って、ヴァイスは再び構えをとった。
「次は俺が全力でいく。剣の記憶が本物かどうか、試させてもらう!」
蒼真は頷いた。
「――お願いします、師匠!」
そうして、激しい剣の稽古が再び始まる。
その間、凛花はメリアの手伝いで薬草を採りに森を訪れていた。彼女の小さな手は薬草を摘みながらも、兄の姿を想っていた。
(お兄ちゃん……頑張って。私も、ちゃんと成長するから……)
空にかかる雲の隙間から、光が剣の谷を照らす。
それはまるで、新たな力と絆が目覚める予兆のようだった――。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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