第58話 記憶の迷宮10
“記憶の扉”が開かれた瞬間、空間の色が変わった。
白かった世界が徐々に薄い金色に染まり、まるで夜明け前の空のようにゆっくりと輝き始める。
蒼真と凛花は、そこに一歩、また一歩と踏み出していった。
「……ここが、最終の部屋……かな」
凛花が呟くと、彼女の目の前にふわりと光が舞い降りた。
それは――クロエの姿を模した幻だった。
「クロエさん……?」
幻は微笑むと、二人に向かって静かに語りかける。
「蒼真、凛花。あなたたちは、試練を越えました。
――それでも、進む覚悟がありますか?」
蒼真は、ひとつ深く息を吐いた。そして、真っ直ぐ幻を見つめて言う。
「俺は、もう迷わない。凛花を守るって決めた。どんな犠牲を払ってでも、未来を掴み取るって決めたんだ」
凛花もまた、隣で真っすぐに頷く。
「私も、お兄ちゃんと一緒にいたい。だから……強くなるの。私自身の力で、誰かを守れるように」
その言葉に、幻のクロエは静かに微笑み――空気が震えた。
次の瞬間、蒼真の前に一本の剣が現れる。
それは、これまでの彼の記憶・経験・想いが形となったような、鈍く蒼い光を放つ剣だった。
「これは……俺の剣……?」
幻のクロエが頷く。
「これは“記憶の剣”。あなたの心が作り出した武器です。
未熟でも、脆くても、想いがこもったその刃は、時として何よりも強い」
蒼真が剣を手にした瞬間、周囲の空間が収束し始める。
ふたりの視界が再び、現実世界――霊樹の根元に戻ってきた。
「……戻ってこれた……?」
凛花がそっと目を開けると、手の中に淡い光の石が握られていた。
それは記憶の迷宮を抜けた者に与えられる、“記憶の核石”。
魔力と記憶の力を融合させることで、一時的に自身の力を引き上げることができる貴重なアイテムだ。
「これが……!」
蒼真も、自らの剣を見つめる。握った感触は、しっかりと手に馴染んでいる。
「……きっと、次はもっと過酷な道が待ってる。けど、俺はもう逃げない」
凛花が微笑む。
「お兄ちゃん……私たち、きっと大丈夫だよ」
兄妹はそっと拳を重ねた。
それは、どんな魔物より強く、どんな闇よりも温かい、“家族の絆”の証だった。
彼らの視線の先には、剣術の修行地として知られる霧深き剣士の谷が広がっていた。
次なる章が、静かに幕を上げようとしていた。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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