第57話 記憶の迷宮9
静かに開いた扉の向こうは――まるで時が止まったかのような、白く霞んだ世界だった。
蒼真と凛花が足を踏み入れた瞬間、感覚の全てが宙に浮いたような違和感に包まれる。
「……ここ……どこ?」
凛花が震える声で呟く。周囲には何もない。ただ、どこまでも白い空間が広がっていた。
「“記憶の最深層”――。きっとこれは、俺たち自身の心の中……」
その言葉を証明するかのように、ふたりの目の前に――見覚えのある風景が現れた。
それは、かつてふたりが暮らしていた小さな家。
転移する前、現実の世界で、何気なく過ごしていた“あの日”の記憶だ。
「これって……お兄ちゃんの、記憶?」
「……いや、凛花。たぶん、どちらの記憶も混ざってる」
家の中には、幼いふたりの姿があった。
兄を追いかけて笑う凛花。
守るようにして手を引く、まだ幼い蒼真。
「……これは、忘れかけてた記憶……」
凛花がそっと手を伸ばし、その光景に触れようとした瞬間――
バキィッ!!
白い空間が軋む音と共に、突如、影のような存在がふたりを包囲する。
それは“記憶の守人”――過去と向き合う資格を試す、存在だった。
「来るぞ、凛花――!」
蒼真が剣を構えた時、影の守人たちは人の姿を取った。
それは……兄妹の両親の姿だった。
「えっ……お父さん? お母さん……?」
「違う、偽物だ!」
蒼真がすぐさま凛花をかばい、斬りかかる。
だが、幻影の“父親”が蒼真の斬撃を手で止めた。
「なぜ……っ!? ただの幻じゃないのか……!」
「……お兄ちゃん、これ……“心”を読んでくる相手……!」
影たちは言葉を発した。
「凛花……おまえの力が、災いを呼ぶ」
「蒼真……守ることで、おまえは何を失う?」
それは、心に刺さる言葉だった。
過去に一瞬でもよぎった“不安”や“迷い”が、まるで姿を持ったかのように襲いかかってくる。
「おれは……迷わない! 凛花は……俺が守る!!」
蒼真が叫び、剣を振るう。
その一閃に凛花も魔力を重ね――
「“光穿・双連陣!”」
ふたりの力が重なった瞬間、影の両親は光に包まれて消えていった。
静寂が戻り、再び白い空間が現れる。
そして今度は――蒼真自身の“記憶”が、空間に浮かび上がった。
それは、クロエが自分の盾となって命を落とした、あの瞬間。
「……っ」
胸を押さえる蒼真に、凛花がそっと手を伸ばす。
「大丈夫。私……お兄ちゃんの気持ち、分かってる」
「……俺、あの時、無力だった。凛花を守るって誓ったのに、クロエさんを守れなかった……!」
凛花は、そっと兄の胸に額を当てた。
「それでも私は、生きてる。お兄ちゃんが……私を守ってくれたから」
その言葉に、蒼真の中で揺れていた“痛み”が、少しずつ、癒えていく。
その時――空間に新たな“記憶の扉”が現れた。
扉の先には、修行の地へと通じる道が続いている。
「……進もう、凛花」
「うん……もっと、強くなるために」
そして兄妹は、過去を乗り越え、再び歩き出す。
その背には、確かな絆と新たな決意が刻まれていた。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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