第54話 記憶の迷宮6
回廊を抜けた先は、どこか聖域のような静けさに包まれていた。
薄明かりの差し込む神殿のような空間。中央には、赤黒い石でできた祭壇がそびえていた。
「……ここが、“血の契約”の場所……?」
凛花が蒼真の袖をつかみながら、小さく呟いた。
蒼真は周囲に目を配りつつ、警戒を緩めない。
「油断するな。この空間、ただの試練じゃない。何か……魂を試されてるような圧を感じる」
そのとき、石の祭壇に浮かび上がる文字。
《血を継ぐ者よ。汝の中に流れる“王の血”が真であるか、今ここで証明せよ》
「“王の血”……?」
蒼真の目が鋭くなる。
(母が……“王家の血”を引いていた?)
(もし凛花もそれを継いでいるなら――それが、世界中に狙われる理由か?)
そんな思考を巡らせる間にも、祭壇が脈動し始める。
ドクン――ドクン――と空間全体が心臓の鼓動のように震え、祭壇の下から何かが浮かび上がった。
それは、赤黒い液体に覆われた、人型の魔物。
だがその姿――
「……俺?」
蒼真と瓜二つの姿をした“もうひとりの蒼真”だった。
「お前は誰だ……!」
偽物の蒼真は、薄く笑い、剣を抜いた。その刃は深紅に染まり、見るだけで精神が削られるような殺気を放っている。
「俺は“お前が見て見ぬふりをしてきた本性”だよ。
怒り、迷い、弱さ、そして――凛花への執着」
「黙れッ!!」
蒼真は一気に間合いを詰め、剣を振るう。
しかし、偽物の蒼真はまるで鏡のように同じ動きで受け止めた。
――斬っても斬っても、通じない。自分の思考を先読みされているかのような戦い。
それでも、蒼真は止まらなかった。
「俺は……弱さを認めてる。けど、それを乗り越えるために、剣を取った!」
剣が火花を散らす中、凛花が叫ぶ。
「お兄ちゃん……“あの技”を!」
蒼真は一瞬目を見開く。
思い出した。剣術の師ヴェルガから授かった、奥義の一端。
そして――記憶の試練で手に入れた新たな“母の力”と、凛花が以前無意識に発動した“空間干渉”。
(融合させる……!)
蒼真は一歩下がり、剣を構える。
「――【閃嵐・刻】」
彼の周囲の空間が震えた。
時間を一瞬だけ“引き延ばし”、その中で剣閃を多重に重ねる技。
通常ならば使いこなせない“記憶干渉”の魔法を、一時的に剣術に取り込んだ蒼真だけの奥義。
五重の斬撃が一瞬で放たれ、偽物を包み込む。
偽物の蒼真は抵抗しきれず、赤い光とともに崩れ落ちた。
空間に静寂が戻ったとき、祭壇の上に小さな赤い紋章が浮かんでいた。
「これが……“血の契約”」
紋章は凛花の胸元に吸い込まれていった。
一瞬、彼女の体が淡く光り、魔力が整ったような気配が漂う。
「これで……凛花は、王家の力を抑える術を手に入れたんだ」
蒼真は凛花の手を取る。彼女は小さく頷きながら言った。
「ありがとう……お兄ちゃん。私、少し怖かったけど、もう大丈夫」
そのとき、再び神殿の奥に扉が現れた。
次なる扉にはこう刻まれていた。
「欺きの森――真実と虚偽の境界線」
「まだ試練は続く。けど……きっと、乗り越えられる」
蒼真の言葉に、凛花は笑顔でうなずいた。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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