第53話 記憶の迷宮5
母との記憶の間が消え、兄妹の前に現れたのは、灰色の石造りの長い回廊だった。
天井は高く、壁には古代文字が彫り込まれている。
その文字のひとつひとつが淡い赤光を帯びており、まるで心音のように脈打っていた。
「……ここが“試練の回廊”か」
蒼真が警戒しながら一歩を踏み出すと、空間がぐらりと歪み、目の前に黒い霧が立ち昇った。
霧の中から現れたのは、全身を漆黒の鎧で覆った騎士。
兜の奥から、赤い光が不気味に揺れている。
「汝、記憶を背負いし者……覚悟はあるか?」
低く響く声と同時に、騎士は剣を抜いた。刃は黒く染まり、音を立てて空気を切り裂いている。
「……来い!」
蒼真も剣を抜いた。
母から受け取った剣、その柄にはあの“星の花”と同じ模様が浮かんでいた。
激突。
鋼と鋼がぶつかり、火花が散る。
騎士の一撃は重く、鋭かった。
だが蒼真は、これまでの修行で培った動きでかわしていく。
(――剣の重さが違う。これは、今までの魔物とは別格だ……!)
だが、蒼真は怯まない。
これまでの旅路で幾度も凛花を守り、クロエの犠牲も乗り越えてきた。
剣術の師匠、ヴェルガから学んだ「読みの剣」。それに、自らの戦闘スタイルである【双閃】――連続で繰り出す鋭い二撃。
「はあああっ!!」
蒼真は一度目の突きを外し、相手の反応を見てから、すぐに逆手で斬り上げる。
【双閃・零式】――新たな連撃技。記憶の迷宮での気配の読みと、実戦経験の融合。
黒騎士が後退し、兜の奥からうめき声が漏れた。
「……成長したな、小さき剣士よ」
その言葉とともに、騎士の鎧が崩れ、中から光の塊が浮かび上がった。それは、母・リーネの記憶の断片だった。
「――お母さん……?」
蒼真が見上げると、記憶の光が静かに語り始める。
「蒼真……凛花……。
私が残せるものは、わずかだけれど……“生きる強さ”だけは、伝えたかった。
お前たちは、運命に巻き込まれた子どもたち。でも、選ぶことはできる。
どんな道を歩くかを――信じるものを守るために」
その言葉と共に、蒼真の剣が淡い青に光った。記憶の力が、剣に宿ったのだ。
「……ありがとう、お母さん」
隣で凛花が、静かに微笑んだ。
「お兄ちゃんの剣、今すごく頼もしいよ」
試練の回廊の奥へ進むと、広場の中央に浮かぶ石碑が現れた。そこには、こう記されていた。
「次なる試練――『血の契約』」
「血……?次は、何が試されるんだろう……」
不安げな凛花の手を、蒼真はしっかりと握った。
「何が来ても、俺たちは一緒だ」
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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