第51話 記憶の迷宮3
兄妹が階段を登ると、空間は再び変貌を遂げた。
先ほどの花畑とは打って変わり、そこは静まり返った古びた図書館。
天井まで続く本棚に囲まれた空間の中央に、一冊の分厚い書物が置かれていた。
「……ここ、図書室?」
凛花が不思議そうに声を漏らす。だが、その顔はどこか懐かしさを感じていた。
蒼真は辺りを警戒しながら本に目を向けた。
「『記録の書』って……書いてあるな」
本を開くと、空中に浮かび上がる光の頁――そこに映し出されたのは、見覚えのある場面。
――蒼真が、凛花の手を振り払っている場面だった。
「お前なんか、いなきゃよかった!」
「どうして私だけこんな目に……!」
それは、二人が言った覚えのない“嘘の記憶”。
けれど、それはまるで現実のように、はっきりと、心を抉ってくる。
「こんなこと、言った覚えなんて……!」
蒼真が言葉を詰まらせる。
一方、凛花も顔を青ざめさせていた。
足元が揺らぎ、まるで心そのものが試されているような感覚――
「……これは、心を蝕む記憶の罠だ」
どこからともなく、声が響いた。
「お前たちが抱く不安、怒り、悲しみ――それを利用して、絆を壊す。それが“迷宮の主”のやり口だ」
現れたのは、白いローブを纏った青年。
長くのびた銀髪に、深い青の瞳。背に負った杖には、無数の古代文字が刻まれていた。
「名を、フェンリル。迷宮に囚われた者だが……お前たちに、賭けてみたくなった」
蒼真が構えると、フェンリルはそれを制した。
「安心しろ。敵ではない。
だが、この記憶の試練はお前たち自身で乗り越えなければならない」
「じゃあ、どうすれば……この嘘を打ち破れるの?」
凛花が震える声で問うと、フェンリルは静かに言った。
「“真実”を、言葉にするんだ。
自分の想いを、言葉にして、偽りに勝つ。――それがこの迷宮の突破法だ」
蒼真は凛花を見た。そして、一歩前に出た。
「凛花。お前に言いたいことがある」
凛花は顔を上げた。瞳が揺れていた。
蒼真は、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「俺は……怖かった。
お前を守るって決めたのに、何度も守り切れないって思った。
あの日、クロエを失ったときも……無力だった自分が、悔しくて仕方なかった」
「だけど……それでも、凛花。
俺はお前を、絶対に一人にしない。どんなに怖くても、お前の兄として――守る」
凛花の目に、涙がにじんだ。
「私も……お兄ちゃんのこと、ずっと頼ってばかりだった。
だけど、今は違う。私もお兄ちゃんを支えたい。
守られるだけじゃなくて、一緒に戦いたい。家族として――」
光が差した。
“記録の書”が輝き始め、嘘の記憶が次々と燃えていく。
フェンリルが目を細めて微笑んだ。
「真実が偽りを超えた時、絆は本物になる。お前たちは、次の扉へ進める」
図書館の奥に、石でできた扉が現れる。
そこに刻まれていたのは――
「最奥の記憶――母の願い」
蒼真と凛花は、互いの手をしっかりと取り合った。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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