第50話 記憶の迷宮2
蒼真が“影の騎士”を超えた先、光の橋のような回廊を渡りきると、空間が一変した。
今度は薄紅の霞が漂う、静かな花畑だった。
風が吹けば、小さな鈴のような音が空気に溶けて消えていく。まるで――夢の中の世界。
「ここ……どこだろう」
凛花が目を見張った。
見覚えがあるような、ないような――それでも彼女の胸は騒がしく、なぜか涙が出そうになっていた。
すると、花の奥から一人の少女が現れた。
それは――幼いころの凛花自身だった。
ふわふわの髪、白いワンピース、寂しげな笑顔。
そして手には、一冊の絵本。
「……だれ?」
蒼真が妹の後ろから警戒するように歩を進める。
幼い凛花は、花の上に座り、ぽつりとつぶやいた。
「お兄ちゃんは……いないの。どこかに行っちゃったの」
凛花の目が見開かれる。
「それ……」
「寂しいから、夢を見てたの。
“優しくて、強くて、ずっとそばにいてくれるお兄ちゃん”が、本当にいたらって」
凛花の手が震え始める。
「やめて……それは――私の嘘。私が勝手に――」
幼い凛花は微笑んだ。
「でも、その夢は幸せだったよ? だからきっと……ずっとそのままでよかったんだよ」
「違う!!」
凛花が叫んだ。
「私が見た夢じゃない! いま隣にいるのは、夢じゃなくて……本物のお兄ちゃん!!」
幼い姿の“記憶の凛花”がふっと立ち上がる。
その瞬間、花畑は黒い棘に覆われ、風が唸りを上げる。
「じゃあ、証明して」
幼い凛花の姿が、ぐにゃりと歪み――次の瞬間、巨大な魔獣の姿へと変貌した。
赤黒い瞳、巨大な腕、そして少女の面影を残した顔。
「凛花を、超えてみて――凛花」
魔獣がうなりを上げ、黒い魔力の奔流が吹き荒れる。
蒼真が即座に剣を抜いたが――
「お兄ちゃん、ここは……私がやる!」
凛花の手に、淡く光る魔法陣が浮かぶ。
「《月詠の煌光》……!」
彼女が繰り出した光の魔法が、魔獣の腕をはじく。
その光は、兄と共に過ごした日々――その“確かな記憶”を糧にした魔力だった。
「私は弱かった。でも、今は違う。
怖い夢も、過去も、私は……ちゃんと見て、向き合う!」
魔獣が咆哮し、黒い呪縛の鎖を放つ。
だが凛花は、蒼真の教えを思い出し、体をひねって避けた。
「《風光連弾》!」
連続する光弾が魔獣の胸を撃ち抜く。
しかし、トドメには足りない。
「凛花、合わせるぞ!」
蒼真が飛び出し、凛花の魔法陣に剣を通す。
「《月閃風牙・連》!」
光と風が交わり、蒼真の剣に重なる。
それは二人の力が“記憶”によってつながった合技だった。
剣が閃き、魔獣の中心を穿つ。
その巨体がゆっくりと崩れ、赤黒い影が風に溶けていく。
静寂が戻る。
凛花はその場に膝をつき、息を整えた。
蒼真がそっと寄り添い、肩に手を置いた。
「お前は夢を見てたんじゃない。ちゃんと、自分で生きてきた」
「……うん」
凛花が小さく笑った。
その時、空が裂け、先へと続く階段が現れた。
記憶の迷宮はまだ続く――けれど、二人の心には確かな光が宿っていた。
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