第49話 記憶の迷宮
扉をくぐると、そこには広大な空間が広がっていた。
天井のないその回廊は、星の瞬きのように淡く光る石で構成され、空間そのものが現実と幻想の狭間にあるかのようだった。
「……夢の中みたい」
凛花がぽつりとつぶやいた。
その足元に浮かぶ淡い足場は、まるで記憶の断片を繋ぎ合わせているようだった。
蒼真は剣を背負い直しながら慎重に進む。
「油断するなよ。ここからが本当の試練だ。今までの敵とは……違う」
二人が一歩進むたびに、足元に刻まれる魔方陣のような模様。
まるで道そのものが“歩いた記憶”に反応しているかのようだった。
ふと、回廊の奥に立つ一体の影が姿を現した。
それは、騎士の鎧をまとった、顔の見えない人影。
「誰……?」
凛花が問うた瞬間、影がゆっくりと剣を抜いた。
だがその剣には見覚えがあった――それは、蒼真が使っている“剣”と酷似していた。
「……まさか」
影は言葉を発さず、ただ静かに構えを取った。
その構えもまた、蒼真が何度も繰り返し鍛えた“型”と全く同じものだった。
「――俺自身、か」
蒼真が呟いた。
「来い。記憶の影だろうと、俺は超えてみせる!」
激突した剣と剣。
その一撃は重く、正確で、迷いのない“理想の蒼真”そのものだった。
「くっ……ッ!」
押し返されながらも、蒼真はかつて学んだ技――
「《断界・裂鋒》!」
――鋭く踏み込み、斬り払う。
だが影はそれすらも読み切り、寸前で身をかわし――逆に《月影返し》の剣を振り下ろしてくる。
(この動き……全部、俺が練習してきた技だ……!)
自分が積み上げたものが敵として立ちはだかる。
その重みと鋭さを、蒼真は正面から受け止めなければならなかった。
その時――凛花が叫んだ。
「お兄ちゃん! あれ……“本当の記憶”じゃないよ!」
蒼真の意識に、微かな“記憶の違和感”が差し込んだ。
剣の動き、目の使い方――どこか“誰か”に似ている。
「……これは、“俺の理想”じゃない。“あの人”の影か!」
影の正体。それは蒼真が子どもの頃に憧れ、そして恐れていた――父の記憶から作られた幻だった。
蒼真は意を決し、両手で剣を構え直す。
「ならば、父さん――あなたの影を超えて、俺は……」
「凛花を守る“俺”になる!」
剣に意志が宿る。
踏み込んだ蒼真の足取りは迷いなく、影の攻撃を紙一重で躱す。
「《風刃・月閃》――!」
剣が風を切り、蒼白い軌跡を残して影の胸を貫いた。
影は一瞬揺れ、その場で静かに崩れ去っていった。
「……乗り越えた」
凛花が小さく笑い、蒼真に近づく。
蒼真は肩で息をしながら、額の汗を拭った。
「まだ……始まったばかり、だな」
目の前の回廊が再び開かれ、次の空間への道が示された。
その奥には――また別の“記憶”が待っている。
兄妹は、ゆっくりとその先へと歩を進めた。
読んで頂きありがとうございます。
『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
ぜひ感想や応援などもらえるととてもうれしいです!
これからもよろしくお願いします!




