第46話 風を越えた約束8
静寂の中で、ただ“それ”は立っていた。
「沈黙の守人」――仮面と漆黒の鎧に身を包んだ異形は、音もなく宿の外に現れ、蒼真たちの窓をまっすぐ見つめていた。
「凛花、ベッドの下に隠れてろ」
蒼真は囁き、剣を手にしてゆっくりと窓の前に立った。
その目に宿るのは、怯えではない。
過去の記憶が今も胸を貫いているからこそ、誰かを守る手を止めない――兄の誓いがそこにあった。
扉を開け、宿の裏手に足を踏み出すと、風が止まった。
守人は、動かない。まるで――蒼真の動きを待っているかのように。
「お前は、何を……守っている?」
返事はない。声を発することもなく、ただゆっくりと、守人の右手が蒼真の方へと持ち上がった。
次の瞬間、周囲に“音”が消えた。
虫の音も、風のざわめきも、宿の中から聞こえていた凛花の呼吸も――一切が“無”となった。
(……これが、奴の力?)
蒼真の心に焦りが走る。
言葉を封じ、音を奪う力。相手の反応も行動も、すべて遮断するような不可視の術――まるで戦場の“死”そのもの。
しかし、そこでふと――
蒼真の脳裏に、かつて戦った魔物“影喰らい”との戦いがフラッシュバックする。
(そうだ……あのときの“風”……)
風を纏い、音の動きを感じ取って斬撃を放った技。
そして、あのとき編み出した新たな組み合わせ――
「記憶を風に刻め――風牙・双断」!」
蒼真の足元に風が巻き上がり、静寂の中に光る双剣の軌跡が生まれる。
視覚と体感で戦況を読む、“音”のない世界でも使える応用技――“風牙”の応用形だ。
その一撃は、沈黙の守人の右腕を斬り裂き、鉄の仮面を揺るがせた。
しかし、守人は叫ばない。
まるで痛覚も感情もない人形のように、再び静かに右手を上げた――だが、その動きの途中でピタリと止まる。
……いや、止まったのではない。何かを感じ取っている。
守人の視線が凛花の気配に向けられたそのとき、空気がふと震えた。
「――お兄ちゃん!」
凛花の声が、封じられていたはずの音を打ち破るように響く。
そしてその手に現れたのは、小さな光の魔方陣。
凛花の内に眠る“記憶の力”が、無意識に働いたのだ。
魔方陣から漏れた光が、沈黙の守人に触れた瞬間――
「……詠み人……」
微かに、守人がそう呟いた。
次の瞬間、影のように霧散し、姿を消してしまう。
沈黙が破れ、音が世界に戻ってきた。
蒼真は剣を下ろし、凛花のもとへと駆け寄った。
「凛花、大丈夫か!」
「うん……。でも、今の声……あれ、誰だったのかな」
凛花の手に残っていた魔方陣は、すでに消えていた。
だがそこに、一つだけ文字が刻まれていた。
“扉は開かれん。詠み人が、その記憶を思い出すまで。”
それは明らかに、“月祈りの遺跡”に関わるものだった。
凛花の力。詠み人。守人。
すべてが一本の線で結ばれようとしている。
「リオに話そう。あの遺跡、俺たちが行かなくちゃならない場所だ」
「……うん」
こうして、兄妹は再び一歩を踏み出す。
記憶を巡る旅と、守るべき約束のために。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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