第45話 風を越えた約束7
蒼真と凛花は、山を越えた先にある小さな町――メレスタへと足を踏み入れた。
町は古い石造りの家々が並び、かつて交易で栄えたらしいが、今では人影もまばら。
その静けさは、まるで空気すらも言葉を飲み込んでしまうような重たさがあった。
「なんか……変だね、この町」
「うん。人の気配はあるのに、誰も声を出さない。まるで……何かを恐れてるみたいだ」
蒼真は町の様子に警戒を強めながら、手に持った地図に視線を落とした。
目的は、この町の北にある**“月祈りの遺跡”**――
古代文字で封じられた扉があり、記憶と魔法にまつわる何かが隠されているとされる場所だ。
市場通りを抜けた先、古びた掲示板に、ひときわ新しい紙が貼られていた。
【注意】
北の月祈り遺跡への立ち入りを禁ず。
異常魔力の観測、および“沈黙の守人”による封鎖が続いている。
絶対に近づかぬこと。
「……沈黙の守人?」
蒼真が声に出すと、近くの住人がビクリと肩を震わせ、すぐに家の扉を閉めてしまった。
「やっぱり……この町、何かを隠してる」
ふと、その掲示板の陰に、一人の少年が隠れていた。
蒼真と凛花と同じくらいの年の、小柄でぼさぼさの髪をした少年だった。
目が合うと、一瞬ためらったが、やがて意を決したように声をかけてきた。
「……君たち、旅人? “月祈りの遺跡”に行こうとしてるの?」
「そうだけど……君は?」
「名前はリオ。この町に住んでる。……僕、知ってるんだ。あの遺跡、封鎖されてるけど、本当は――“誰か”が中にいるんだよ」
「誰か……?」
リオは周囲を見回してから、小声で続けた。
「数ヶ月前に、旅人の一団が遺跡に入って、それっきり帰ってこなかった。
だけど、夜になると……遺跡の奥から、誰かの声が聞こえるんだ。“助けて”って。僕、何度も聞いた」
蒼真と凛花は顔を見合わせる。
記憶に繋がる遺跡、封鎖された空間、そして“助けを求める声”。
これは偶然ではない――きっと、何かが繋がっている。
「リオ。遺跡の場所、教えてくれる?」
蒼真の問いかけに、リオはしばらく迷ったあと、コクリと頷いた。
「でも……中に入るなら、“言葉”を知ってなきゃダメだよ。遺跡の扉は、古代の言語で封じられてるんだ。“詠み人の声”がなければ、絶対に開かないって言われてる」
「“詠み人”……」
凛花が手を握る。
その名は、蒼真の中にも確かに残っていた――クロエが語っていた“記憶に触れる者”たちのこと。
かつて、“詠み人”と呼ばれた人々が魔法の根源に関わる記憶を継承し、封印を管理していたという。
もしかすると……その遺跡には、凛花の力と繋がる“何か”が眠っているのかもしれない。
「……行こう。その遺跡に」
「でも、今夜は宿に泊まった方がいいよ。日が沈んだら、“あれ”が出るから」
「あれ?」
リオは顔を強張らせ、震える声で言った。
「“沈黙の守人”。夜になると遺跡から現れて、町の周囲を徘徊する。
何も話さず、ただじっと見てくるだけ。でも、目を合わせると……“声が消える”んだって」
その夜、宿の窓から月を眺めながら、蒼真は剣の柄をそっと握りしめた。
風の流れが、どこか不自然だった。木々が震えるのではなく――風が怯えているようだった。
「凛花……もし、何かあったらすぐに隠れるんだ」
「……お兄ちゃんも、気をつけて」
その言葉の直後――
外から、ギィ……ギィ……という軋むような音が響いた。
窓の外に、漆黒の鎧に身を包んだ影が立っていた。
目はなく、口もない――ただ、黒い鉄の仮面だけが月明かりを鈍く反射していた。
それが、“沈黙の守人”だった。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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