第44話 風を越えた約束6
朝日が山肌を黄金に染める頃、蒼真は剣を腰に下げ、焚き火の消えた跡にそっと手を当てた。
「……もうすぐ出発だね」
凛花が隣に立ち、小さな声で言う。
ガライとの修行を終えた今、次なる目的地は“南の峡谷地帯”。
古代遺跡の情報を追って、兄妹は再び旅の足を進めようとしていた。
「うん、でも……ちょっと寂しいな」
蒼真はそう言って空を仰ぐ。
この山小屋と静かな谷――何もかもが、彼の心を鍛え直してくれた場所だった。
その背後で、ガライが静かに歩み寄ってきた。
「行くのか」
「……はい」
ガライは無言で包みを差し出した。中には、上質な手織りのマントと、短い手紙。
「旅の道中、剣だけでは守れんこともある。風を見ろ、空を読め。そして……信じたものを守れ」
「……ありがとうございました、師匠」
蒼真は深く頭を下げ、凛花もぺこりとお辞儀する。
その姿を見て、ガライは少しだけ、微笑んだ。
「俺はもう、山から出ぬ。ただ――お前たちの行く先に、必ず“影”が現れる。油断するな」
兄妹が山を下り始めて数日後。
平野部へと抜ける小道で、風に混じって奇妙な気配が混じっていた。
――コッ、コッ、コッ……
軽やかで、だがどこか不気味な足音。
「お兄ちゃん、なんか聞こえる」
「っ……!」
蒼真が凛花を背後にかばった瞬間、前方の木立の間から現れたのは――
銀色の仮面をつけた人物だった。
その者は、褐色のローブをまとい、手には一本の細剣を持っていた。
「……確認完了。目標、“蒼真”および“凛花”……発見」
「……追手、か」
蒼真は即座に剣を抜く。気配の鋭さから、相手がただの追手ではないことが察せられた。
「第十三小隊、“影抜き”部隊所属。任務――“回収および無力化”」
相手が口にしたその言葉は、彼らが組織的に凛花を狙っていることを物語っていた。
「凛花、ここは下がってて!」
「う、うん……!」
蒼真は“風の型”に構えを取り、視線を相手の剣先に固定した。
(剣速……風を切ってない。音も小さい。こいつ……“無風の剣”か!)
それは、音も風も断つように研ぎ澄まされた殺意の剣術――“無風流”。
静けさの中で斬ることを極めた流派だ。
「来るぞ……!」
次の瞬間、蒼真の身体が本能的に跳ねた。
地面が切り裂かれたように、細剣の斬撃が疾風のごとく襲いかかる。
「“風閃・影返し”!」
受け流し、逆撃を放つ!
だが――
「遅い」
蒼真の剣が届く寸前で、相手は無音の回避を行い、背後からもう一撃を突き立てようとしていた。
「っ、く……!」
ギリギリで回避するも、頬をかすめる細剣。血が滲んだ。
(まずい……普通にやったら勝てない)
(なら……!)
「凛花、“記憶の力”、貸してくれ!」
「うんっ!」
凛花が集中する。兄との絆が繋がり、蒼真の意識に一つの光景が流れ込む。
それは、かつてクロエが遭遇した“無風流”の剣士と戦った記憶――
「見えた……!」
(あの剣は、“構えた次の瞬間”に斬る。なら、その前に動けば――)
「“風閃・突嵐”!」
風を一気に集中させ、地面を蹴り砕くほどの踏み込み。
新たに編み出した“突き”の技で、無風の斬撃を真正面から押し破る!
「なっ……!?」
蒼真の剣が、相手の仮面を斬り裂いた。
仮面の下には、人形のように無表情な顔。だが、明らかに動揺の色があった。
「覚えておけ。“守る剣”は、無音すら断つんだよ」
鋭く言い放つと、仮面の者は静かに後退し、闇に消えた。
「……行った、の?」
凛花が駆け寄る。蒼真は少し膝をつきながら、深く息をついた。
「なんとか……ね。けど、これからもっと来る。もっと強いのが」
「凛花も……がんばるから。一緒に、乗り越えるから」
兄妹は手を握り合い、再び歩き出した。
追手は去ったが、これが“終わり”ではない。
むしろ、本当の戦いの幕が上がった瞬間だった。
――“守る剣”と“繋がる記憶”、そして兄妹の絆。
それが、彼らの武器だった。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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