第40話 風を越えた約束2
剣はただ振るえばいいというものではない――
その事実を、蒼真は毎日身体で思い知らされていた。
ガライの稽古は徹底して「基礎」を叩き込むものだった。
一日千回の素振り、同じ足捌きの繰り返し、間合いと反応の練習。剣を抜かせてもらえるのは、日も沈む頃になってからだった。
「……今日は、構えの崩しと“影の型”だ」
夕暮れの谷間に、二人の足音が響く。
老剣士ガライは一本の木剣を握り、静かに構えた。
「影の型……それって?」
「“影”とは己自身だ。相手の動き、過去の記憶、恐怖、迷い――それらに囚われることなく、自分自身の“影”に打ち勝つ型だ」
そう言ってガライが踏み出した一歩は、地を割るような勢いだった。
その一撃を受け止めた蒼真は、衝撃に足を取られ、吹き飛ばされそうになる。
「ぐっ……!」
「まだ甘い! 記憶に囚われている限り、身体は“過去”の動きしかしない。
“今”を切り裂くには、“今”を感じろ! 頭で考えるな、魂で剣を振れ!」
その夜――
蒼真は、焚き火の前で剣を構えていた。目を閉じ、自分の呼吸と鼓動に意識を集中させる。
クロエの最後の叫び。
凛花の小さな手の温もり。
自分が守りたいと思ったすべてのもの。
(あのときの俺じゃ、届かなかった……でも、今なら……)
剣を振る。
その軌道に、静かに風が流れた。
「……見えたのか?」
背後から、ガライの声がした。
「少しだけ、です。でも……わかった気がします。“影”を断ち切る剣。これが、俺の剣です」
その翌日――
蒼真は初めて、実戦形式の修行に挑むことになった。
ガライは森の奥深くに導き、古の封印が施された遺跡の前に立った。
「ここには、“剣の記憶”が封じられている。
挑む者の記憶と向き合い、それを乗り越えなければ先へは進めん。お前の“影”を試すには、ちょうどいいだろう」
扉が開かれると、ひんやりとした空気が流れ出した。
その中には、蒼真の知らぬはずの剣士たちの気配が漂っていた。
――記憶を映す剣の幻影。
それらはガライのかつての師、戦場で死んでいった剣士、名も無き英雄たちの記憶から形づくられていた。
「さあ、進め。これは修行ではない。“覚悟”の試練だ」
蒼真はゆっくりと剣を抜いた。
その刃先には、かすかに“風”のような魔力が纏い始めていた。
(いくぞ……俺は、過去を断ち切る)
足を踏み出す。
炎の剣士、影を纏う騎士、そして最後には“かつての自分”が幻影として立ちはだかることになる。
だが、それを超える先にこそ――蒼真だけの剣が待っている。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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