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第4話 逃避行の始まり3

廃教会の中は、静かだった。

かすかな雨音が屋根の隙間から落ちる。

壁際には古びた長椅子が並び、祭壇の上には苔むした十字の装飾。

時間の止まったような空間で、蒼真は焚き火の火をじっと見つめていた。


凛花は、毛布にくるまれたまま小さく寝息を立てている。

その寝顔を見ていると、ほっとするような、切なくなるような、不思議な気持ちになる。


「お兄ちゃん、あのね……」


眠っていると思った凛花が、ふいにぽつりと声を出した。

目を閉じたまま、まるで夢の中で誰かと話しているかのように。


「お兄ちゃんが泣いてる夢、見たよ。とっても寒いところで……」


蒼真の眉がひそまる。

「……そんな夢、見なくていいよ。俺は泣かない」


凛花は小さく笑った。

「ふふ、そう言うと思った」


その笑みを見て、蒼真は頭を撫でた。

妹はまだ子どもで、小さな肩で大きな力を背負っている。

そのことが、胸に重くのしかかる。


「……星詠みって、本当に未来が見える力なのか?」


火を見つめながら、蒼真はぼそりと呟いた。近くにいたルディアが目を上げる。


「そうとも限らないわ。未来は“視える”んじゃなくて、“選ばれる”。星の意志が見せたい未来しか見えないのよ。だから……その力は便利だけど、嘘つきでもある」


「じゃあ、凛花が未来を見ても、それが本当に起きるとは限らない?」


「ええ。むしろ、見えたからこそ抗えるかもしれない。けれど、抗おうとすればするほど、星は君たちを試してくる」


ルディアの声は静かだったが、どこか重く、過去の影が滲んでいた。


蒼真は何も言わず、薪を火にくべる。

ルディアはその横で、ふと笑った。


「……蒼真、だったかしら。君って、案外面白いわね」


「え? どこが……」


「言葉が少ないのに、ちゃんと伝わる。真っ直ぐな目をしてる。そういうの、嫌いじゃないわ」


照れくさそうに目を逸らした蒼真の姿に、ルディアはふふっと微笑んだ。


「でも、本当に旅を続ける気なの? 二人だけで」


「……うん。誰かを巻き込みたくないし、それに――」


「凛花は、俺が守るって決めたから」


その言葉は、迷いがなかった。

ルディアはその決意を確かめるように、じっと蒼真を見つめたあと、ゆっくりと頷いた。


「なら、その覚悟を信じましょう。でも、知っておいて」


彼女は手のひらをひねると、そこに小さな光の粒が浮かんだ。

それは、まるで蒼真が生み出した星剣の光に似ていた。


「君の中にも、“星”は宿ってる。きっとね」


「……俺の中にも?」


「まだ気づいてないだけ。妹を守ろうとするその想い――それが本当の力になる日が、きっと来るわ」


その夜は、風の音と小さな火の揺らぎだけが、教会の中を満たしていた。


翌朝。

雨は上がり、森の中に朝日が差し込んでいた。


「お兄ちゃん、おなかへったー!」


凛花が元気に手を伸ばしてくる。蒼真は、にやりと笑って小さなパンを渡した。


「ほら、昨日のうちにルディアさんがくれた保存食。ちゃんと味わえよ」


「わーい!ありがとうお兄ちゃん!……ルディアさんも、ありがとっ!」


「どういたしまして。可愛いあなたの笑顔を見るのが、一番の報酬よ」


簡素な朝食を囲みながら、小さな笑い声がこぼれる。

一時の平穏、ささやかな日常。


でも――蒼真の心の奥では、語り部の言葉が静かに反響していた。


「黄昏の星じゃ……やがて、世界の均衡を揺るがす存在になるじゃろうな」


凛花は、本当にそんな存在なのか?

そして、自分にはそれを守りきるだけの強さがあるのか?


彼はまだ知らない。

この旅が、やがて帝国と教団、星の理を巻き込む“運命の渦”へと変わっていくことを。


でも、今は――この小さな手を、ただただ握っていたかった。

読んで頂きありがとうございます。

『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。

ぜひ感想や応援などもらえるととてもうれしいです!

これからもよろしくお願いします!

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