第37話 記録の守人たち6
アストレアの渓谷――風がつねに唸りを上げるこの地の奥、岩壁の間を縫うように進んでいくと、不自然に風が静まる場所があった。
そこに佇むのは、巨大な石門。
まるで古代の神殿のような荘厳さを湛えたその門の中央には、風を模した紋章が刻まれている。
クロエは静かに歩み寄り、懐から記録石片のひとつを掲げた。
「ここが“風の記録”が眠る場所です。“風の試練”と呼ばれる結界が張られており、原記録を穢す者は決して中へ入ることができません。あなたたちの“心”が試されます」
「心が……?」
蒼真が眉をひそめたその瞬間、門の前に突如として霧が立ち込め、渓谷の風が静まりかえった。
そして現れたのは――
少年だった。
年は蒼真と同じくらい。
どこか懐かしさを感じる、けれども明らかに“人”ではない、そんな存在。
「“記録の守り手”か……」
蒼真が警戒しながら短剣を構えたその時、その少年は口を開いた。
「問う――君は、なぜ戦う?」
風の精霊のようなその少年は、まるで魂の奥に直接語りかけるように、蒼真の目をじっと見つめていた。
「俺は――」
言葉を探すように口ごもる蒼真。その袖を、凛花がそっと引いた。
「お兄ちゃん……言っていいよ。私、知ってるから」
蒼真は、静かに目を閉じ、そして正面を見据えて答えた。
「俺は……凛花を守るために戦う。
誰かに決められた運命でも、使命でもない。俺の“家族”は、俺が守る。
それだけは譲れない」
その言葉に、風の少年はふっと微笑んだ。
「――では、見せてみろ。君たちの“絆”が、風を越える力かどうか」
突如、空間が揺れ――周囲に六体の“風精型魔獣”が出現する。
翼のある獅子、双頭の蛇、風を纏う猿……いずれも異界の空気を纏った存在だ。
「来るよ、凛花!」
「うん!」
蒼真は影を伸ばし、三体の魔獣の動きを封じる。《影縫い・連結陣》
凛花は両手を合わせて、空中に緋色の陣を展開した。
「《燈火の結び》!」
周囲の魔力を束ね、兄の影術に一時的な“魔力耐性”を付与する。
この技は、以前の旅で覚えた《陽焰の導火》と《魔脈律動》の組み合わせによる新術だ。
蒼真は一歩踏み込み――風魔獣の前へと突っ込む。
「“斬烈・裂風双断”!」
短剣から放たれる二重の風刃が、双頭の蛇を断ち、後方の猿へと迫る。
しかし、風魔獣は俊敏だった。猿が風をまとい、蒼真の背後へと瞬時に回り込む――
「――っ!?」
その瞬間、凛花が再び手をかざした。
「《記録共鳴・陽焔陣》!」
地に残っていた兄の影から、凛花が“記録の火”を呼び起こす。
蒼真の体がふわりと輝き、記録の力による加速状態に入る。
「“嵐穿・斬影”!」
蒼真の斬撃が、風の魔獣を正確に捕らえた。
兄妹の連携が、完璧に決まった瞬間だった。
やがて、すべての風魔獣が消滅すると同時に、風の少年の姿も薄れていく。
「……見事だ。君たちの“絆”は、風の試練を越えた。
ならば、記録の門は、開かれよう――」
石門が、風の音と共に開かれていく。
その奥に広がるのは、まるで空そのものが広がっているかのような、光と風の神殿。
蒼真と凛花は、互いの手を握りしめたまま、その神殿の奥へと踏み出していった。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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