第36話 記録の守人たち5
“アストレアの渓谷”――
風が唸り、岩壁がそびえる峡谷地帯。
崖と断崖が複雑に入り組むこの地は、かつて“風の神”が眠るとされた場所だという。
そして今、そこに“原記録”の一つが存在すると、記録の守人クロエは語った。
蒼真と凛花、そして一時的に同行するクロエは、渓谷の入口に辿り着いていた。
「……風が強い。足場も悪いね」
「はい。この地では“風の試練”と呼ばれる防衛機構が働いている可能性があります。魔物も、それに影響を受けた個体がいるかと」
その言葉を証明するように――
「ギイイアアアァァ!!」
渓谷の上空から、滑空するような影が飛来した。
鳥のようでいて、翼の代わりに“刃”を持つ異形の魔物。
その名は《風刃翼》――風を纏い、高速で斬り裂く飛行系魔物だ。
「っ、来たか!」
蒼真は素早く凛花を背に庇い、腰の短剣を引き抜く。
「影縫い、展開!」
地面に落ちる自身の影から黒い紐のような魔力が伸び、風刃翼の動きを一時的に拘束する。
が、次の瞬間――
「くっ……斬られた!?」
影縫いの拘束ごと、風の刃が切り裂いた。高密度の風魔法が、影そのものを断ち切る。
「お兄ちゃん、来るよ!」
凛花が指を弾くと、炎が空に舞い、爆ぜるように炸裂する。《陽焰の導火》――火の紋術で目くらましと誘導を行う支援術だ。
蒼真はそれに乗じて、再び跳躍する。
「斬烈――“疾風閃”!」
これまでの直線的な斬撃「斬烈」に、“風”を纏う術式を加えたことで、空中での斬撃に機動性が加わる。
風刃翼の腹部に切り込みが入り、風が逆流して一時的に動きを失う。
「おにいちゃん、今!」
凛花が叫ぶと、蒼真は――ポケットから、ある石片を取り出した。
それはクロエが渡した、“記録の記憶片”。
握ることで、その場の“記録の力”を借りることができる特別なアイテムだ。
「一度だけだって言ってたけど――今しかない!」
《記録共鳴――起動》
蒼真の身体を光の紋が包む。身体能力が大幅に強化され、動きが風そのもののように軽やかになる。
「――“嵐穿・斬影”!」
斬烈、疾風閃、そして影縫いの要素を組み合わせた新技。
風の流れを読むことで“影”の位置を瞬時に変え、それを結び、連続する斬撃へと変化させる。
風刃翼が風と共に消え去るように砕け散る。
「やった……!」
息を切らしながら着地した蒼真に、凛花が駆け寄る。
「お兄ちゃん、すごかった! あの光――記録の力?」
「……ああ。でも、これが使えるのはもうしばらく先だな。負担がすごい……足も少し痺れてる」
クロエが近づき、静かに言った。
「記録の力は本来、守人でも長時間は扱えません。あなたは……本当に、特別な存在なのですね」
その言葉に、蒼真は静かに笑った。
「特別なんかじゃないよ。俺はただ、凛花を守りたいだけなんだ」
クロエは目を細めた。
「……その想いが、記録を動かす力になったのかもしれませんね」
風の渓谷の奥。次なる“原記録”の地へと続く道を前に、兄妹の旅は続く。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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