第35話 記録の守人たち4
水の傀儡との戦いから数時間後――
広場に集まっていた町人たちは蒼真と凛花に感謝の言葉を残しつつも、怯えたように距離をとっていた。
水の中から現れたあの異形と、それを打ち倒した少年。
その背に寄り添う、不思議な力を持った少女。
まるで物語の中の登場人物が現実に現れたように――
宿の部屋へと戻った二人は、簡単な夕食を済ませると、窓際に並んで腰掛けていた。
「……さっきの“水の傀儡”、やっぱり私を狙ってた」
「うん。言葉を話したことも気になる。あれは……ただの魔物じゃない。もっと“意志”がある」
蒼真の表情は険しい。
凛花は少し躊躇ってから言葉を継いだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。さっきの戦い……こわくなかった?」
蒼真は目を細めて、静かに答えた。
「怖いよ。でも、それ以上に――絶対に、凛花を失いたくないんだ」
その言葉に、凛花は目を伏せて小さく頷いた。
その時――
コツ、コツ、と扉を叩く音。
「……誰?」
蒼真が立ち上がって扉を開けると、そこには一人の少女が立っていた。年の頃は蒼真と同じくらい。銀色の髪と、記録紙を模したような織模様の白いローブをまとっている。
「あなたが、“記録に触れた者”ですね」
凛とした声。その瞳は、まるで書物のように深く静か。
「……あなたは?」
「私は“記録の守人”を代表する使者――『クロエ』と申します」
静かに部屋へと招き入れると、クロエは椅子に腰を下ろし、淡々と語り始めた。
「今、この世界の“記録”が脅かされています。
あなた方が倒した“記録喰い”は、記録を歪め、歴史を改変しようとする存在。
そして……“火の巫女”――凛花様。あなたの存在が、それを強く引き寄せています」
「じゃあ……やっぱり凛花は狙われる存在なんだね」
蒼真が口を引き結ぶ。
クロエは頷きながらも、続けた。
「しかし……それと同時に、凛花様の力は、記録を“修復”できる可能性を秘めています。
だからこそ、我々はあなた方に――協力を求めに来たのです」
「協力?」
「“記録の礎”と呼ばれる場所が世界に七つあります。そこには、この世界の根幹を記した“原記録”が存在します。現在、それらが何者かによって次々と汚染されているのです。あなた方には、その“原記録”を浄化しながら旅をしてほしい」
凛花が蒼真の腕をぎゅっと握った。
蒼真は少しだけ逡巡してから、クロエを見据えて言った。
「それが、凛花を救う道でもあるなら……協力する。
でも、一つだけ――覚えておいてほしい」
「……なんでしょう?」
「俺たちは、“使い捨て”の駒じゃない。凛花は俺の、大事な妹なんだ。利用する気なら、今すぐ帰ってくれ」
クロエはほんの一瞬だけ驚いた表情を浮かべて、ふっと微笑んだ。
「……誠実な方ですね。ならば、我々も誠意を持って接しましょう」
彼女は懐から小さな石版を取り出した。表面には文字が浮かび上がっている。
「これは、次の“記録の礎”の位置を示す手がかりです。“風の記録”の地――『アストレアの渓谷』。
旅の導として、私も数日だけ同行させていただきます」
「……一時的なら構わないよ。俺たちは、あくまで兄妹で進むんだから」
蒼真はきっぱりと答えた。
凛花も笑ってうなずいた。
こうして、新たな目的地が定まり――
兄妹は、再び歩き出す。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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