第34話 記録の守人たち3
山道を抜けた先に現れたのは、清らかな湖と共に佇む美しい町だった。
“ティラナ”――水鏡の町と呼ばれ、湖の水面が空と同じ色を映し出すことからその名がついたという。
町の入り口では、年配の門番が柔らかく笑いかけてきた。
「珍しいねえ、旅の子供なんて。どこから来たのかい?」
「少し北の……山を越えて。休める宿を探してるんです」
蒼真が簡単に答えると、門番は頷いて町の中を指さした。
「だったら湖のほとりに“水紡ぎ亭”って宿がある。温かいスープがうまいぞ。……気をつけてな、最近この辺にも“妙な気配”があるって話だから」
「妙な気配……?」
蒼真が問い返すと、門番は言い淀みながらも口を開いた。
「ほら……水面に影が映るんだよ。“本来そこにいないもの”のな。記録を歪めるような、そんな影が」
蒼真と凛花は顔を見合わせる。
“記録を歪める影”――まさか、再び“記録喰い”が?
それでも、今は休息が必要だった。
二人は町に入り、宿へと向かった。
夕暮れ。
“水紡ぎ亭”の窓からは、湖面に映る空の色が見えた。
凛花はカップを両手で包み込みながら、じっと外を見ている。
「……綺麗だね、ここ」
「うん。久しぶりに……安心できる空気だ」
蒼真はスープをひと口啜ってから、凛花に目を向けた。
「でも、油断はしない。あの門番が言ってた影の話……気になる」
凛花は小さく頷き、声を潜めるように言った。
「昨日、倒した“記録喰い”。あれに似た気配を、ほんの少しだけど……この町でも感じるの」
蒼真は視線を外の水面へ。
「この湖、ただの自然の水じゃない。……“記録の水”かもしれない」
凛花が目を見開いた。
「……水に記録が宿るってこと?」
「この世界では、炎も、風も、水も、“記録”の媒体になるって前に聞いた。
もしこの湖が“水の記録”と繋がってるなら……何かが封じられてる可能性がある」
その時――
カン……カン……!
町の中心から鐘の音が鳴り響いた。
異変の知らせだった。
広場へと急いで向かった二人の目に映ったのは――
湖のほとりで、倒れる住人たちと、淡い青光をまとった“人ならざる者”。
それは、ひときわ大きな水の傀儡だった。
「また……!」
蒼真が剣を抜き、凛花が後方に立つ。
その時、傀儡の目が凛花を見据えた。
「火の……巫女……」
それは確かに、言葉を発していた。
「記録の秩序を、乱すもの。……浄化する」
「お兄ちゃん……!」
蒼真は凛花を庇うように前に出る。
「来るぞ!」
水の傀儡が両腕を振り上げ、町の噴水が一斉に跳ね上がる。
次の瞬間――
《水禍・氾濫》!
放たれた水流が渦を巻きながら広場を襲う。
蒼真は駆け、剣で水流を断ち切るように一閃!
だが水は形を変えて、何度も襲いかかる――
「凛花、力を……貸してくれ!」
「うん!」
凛花が記録に語りかけ、蒼真の剣が再び赤熱する。
「――これで終わらせる!!」
《焔衝・破結陣》!
火と水が激突し、熱気が空を裂いた――!
次の瞬間、傀儡の身体が蒸発し、蒼真の剣がその中心を貫いた。
静寂が戻り、広場には薄く霧が立ちこめる。
凛花が蒼真の元へと駆け寄った。
「……ありがとう、お兄ちゃん」
「こっちこそ。……でも、やっぱり、誰かが俺たちを……“試してる”ような気がする」
その言葉に凛花はうなずいた。
「きっと、“記録の守人たち”が動き始めてる。私たちを……見てるんだよ」
町に灯る灯火の中で、二人は新たな覚悟を胸に抱いていた。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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