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第31話 星の巫女と炎の記録10

夜明けの空は、まだ薄紫を帯びていた。


風は静かに吹き、村の家々の屋根を撫でながら、東の森へと抜けていく。

その風に送られるようにして、蒼真と凛花は村をあとにした。


「……行っちゃったね」


ナイルが丘の上からその後ろ姿を見つめていた。

彼の隣には、木彫りの風車が揺れている。


「次はいつ会えるのかなぁ」


小さく呟いたその声は、風に乗って兄妹の背中に届いたかもしれない。


 


旅の道中は、思ったよりも穏やかだった。

けれど、進むにつれて空気の匂いが変わっていくのが分かった。


土の匂いから、岩と硫黄の匂いへ。

草原の風から、熱を孕んだ風へ――



「……あれが、火山帯か」


遠くに、赤黒い岩肌を持つ山々が見え始めていた。

その中心にそびえるのは、噴煙を上げる巨大な火山――


かつて「炎の都」があったとされる伝承の地である。


凛花は、胸元の記録書に手を当てた。


「風が……うなってる。ここに“記録”があるって、言ってる気がする」


蒼真はその言葉を受け、周囲を見渡した。


「慎重に行こう。炎の土地じゃ、風の加護も不安定になるかもしれない。

何より、ここには“記録を守る者”がいるって話だったな

 

凛花が頷いたときだった。


――カッ……カッ……


音もなく、岩の道の先に現れたのは、一人の少女だった。


黒く艶のある髪を後ろで結い、赤い法衣をまとっている。

その姿は、どこか神聖で、けれど何かを背負った影もまとっていた。


「風の巫女……その記録、あなたが持っているのですね」


蒼真は即座に妹の前に立つ。


「……あんたは誰だ?」


少女は答える。


「私は“ユナ”。この地に残された“記録の守人”よ。

かつての巫女が遺した“炎の記録”を、今もこの地で守っている」


凛花が一歩前に出る。


「……炎の記録、見せてもらえますか?

わたし、風の記録を受け継いだ者です。前任の巫女の足跡を辿っています」


ユナは少しだけ目を細め、ふたりを見つめた。


「……風の者が来るのは、百年ぶり。あなたたちが“選ばれた”のなら、試練を受けてもらいます」


蒼真の目が鋭くなる。


「試練だと?」


ユナは頷いた。


「記録とは、ただ知識を受け継ぐだけではない。

それを守る力と、意味を問う心がなければ、真に継承はできない。

この地に眠る記録は、“灼熱の記憶”。――そして、過去に巫女を失った“真実”の記録」


凛花は驚いたように目を見開く。


「巫女を……失った……?」


ユナは語る。


「百年前。前任の巫女はこの地で記録を継ぐことに失敗し、その命を落とした。

それは“風”と“炎”が交わったときに起きた悲劇。

あなたたちが記録を継ぐ覚悟があるのなら――その過去に触れてもらいます」


 


その夜、兄妹は火山の麓にある古代神殿に案内される。


そこは、風も炎も静まり返る不思議な空間だった。


ユナは神殿の奥で、ひとつの石碑の前に立つ。


「ここに、“失われた巫女”の最後の記録があります。

あなたが触れれば、記録が“語る”でしょう――凛花。あなた自身の心に」


凛花はおそるおそる手を伸ばした。


石碑に触れた瞬間、視界が白く染まる。


 


彼女が見たのは、かつての“巫女”の記憶だった。


命を削りながらも、記録を守ろうとした少女。

その傍らには、彼女を守ろうとする少年がいた。


――けれど、その少年は、彼女を救えなかった。


「わたしが……弱かったから……記録が……」


少女の最後の言葉が、凛花の胸に突き刺さる。


(……そんな……そんなの、いや)


凛花の目に涙が滲む。


(わたしは……絶対に、お兄ちゃんと――)


その瞬間、記録の白い光が収束し、凛花は神殿に戻ってきた。


「……凛花!」


蒼真が駆け寄って抱きとめる。


凛花は震える手で、兄の胸元を握りしめた。


「お兄ちゃん……わたし、ちゃんと見ることができた。

でも――あんなふうには、なりたくない。絶対に、ならない」


蒼真は強く抱きしめて答える。


「俺がいる。何があっても、俺がいるから。だから、お前はお前のままでいていいんだ」


ユナはその様子を見て、ふっと微笑んだ。


「……ならば、“炎の記録”はあなたたちに託しましょう」


そして、神殿の奥の祭壇が開き、灼熱の魔法陣が浮かび上がる。



それが、兄妹の新たな“記録”への扉となるのだった。

読んで頂きありがとうございます。

『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。

ぜひ感想や応援などもらえるととてもうれしいです!

これからもよろしくお願いします!

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