第28話 星の巫女と炎の記録7
風渡りの塔を後にした蒼真と凛花は、南東に広がる風の谷「アルセリナの村」へと足を運んでいた。
高原の中腹にひっそりと佇むこの村は、古くから風を読む術に長けた人々が暮らしていると伝えられている。
「うわぁ……風が気持ちいいね、お兄ちゃん」
「本当だな。ここの風は、なんか“音楽”みたいに聞こえる」
村は小さく、家々は石と木で作られ、風鈴のような風読具が軒先に吊るされていた。
風が吹くたびに涼やかな音が村中に響きわたり、どこか懐かしさを感じさせる。
ふたりが村の広場に差し掛かったとき、子どもたちの笑い声が響いた。
その輪の中には、同じ年頃の少年がいた。
彼は背が高く、やや日焼けした肌に、短く切りそろえた栗毛の髪。
まるで風そのもののように、自由な笑顔を浮かべていた。
「おーい、そこの旅の子!」
少年が駆け寄ってきた。
「お前ら、風の塔から来たのか? あそこに入れる奴なんて、めったにいないぜ」
蒼真が軽く身構えると、凛花が前に出た。
「こんにちは。私たち、旅の途中なの。塔で少しだけ……風の記録に触れてきたの」
「へぇー! やっぱそうなんだ! オレ、ナイル。風を読む家の家系なんだ。
そこの塔、昔から記録を運ぶ“風の巫女”が通るって言い伝えがあってさ。
もしかして、キミ……“星の巫女”?」
その言葉に、凛花は戸惑いながらも頷いた。
「……うん。でも、私、まだまだ全然“巫女”っぽくないよ」
「そんなことないよ。キミの風、すごく澄んでる。ほら」
ナイルは自分の耳飾りに指を添える。小さな風読具が光を弾いた。
「巫女の風は、聴こえるって、おばあちゃんが言ってた」
その日の午後、ふたりはナイルに連れられて村の「風読みの庵」を訪れた。
そこにはナイルの祖母であり、村の長でもある老女・マーヤがいた。
白髪を風に揺らし、穏やかな笑みを湛える彼女は、凛花を見ると優しく目を細めた。
「あなたが……記録の旅をしている、星の巫女さんかい。おや、頼もしきお兄さんも一緒とはねぇ」
「こんにちは、マーヤさん。突然お邪魔してすみません」
蒼真が丁寧に挨拶すると、老女はにこにこと頷いた。
「記録というのはね、旅人が運んでくる風のようなものなのよ。
吹いてきた風が、村を潤すこともあれば、試練を運んでくることもある。
けれど風を恐れては、この谷では生きていけない」
老女は棚から古ぼけた木箱を取り出し、その中から巻物を一つ取り出す。
「これは、この村に残る“古き記録”。
星の巫女が“風の記録”を継ぐと、世界に眠る《封印の環》がひとつ解かれると書かれている」
「……《封印の環》?」
凛花の問いに、マーヤは小さく頷いた。
「ええ。記録を集めるということは、古の封印に触れることでもある。
あなたたちは、“開いてはいけない記録”にも近づいていくことになるでしょうね」
蒼真は眉をひそめる。
「それでも、俺たちは進まなきゃならないんです。
凛花を守るために……この旅を終わらせるために」
マーヤはその目に、静かな敬意を浮かべて答えた。
「ならば、風はきっと味方してくれるでしょう。
あなたたちの決意が揺るがぬ限り」
その夜。村ではささやかな祝宴が開かれた。
ナイルや他の子どもたちと一緒に、凛花は風車を回しながら笑っていた。
蒼真は焚き火の傍で、それを見つめていた。
「……こうやって、普通に笑ってくれてると、安心するな」
彼は小さく息を吐いて、星空を見上げた。
風が吹き、村の風読具がやさしく音を立てる。
そこには、記録に彩られた運命ではない、確かに“今ここにある”日常があった。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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