第25話 星の巫女と炎の記録4
イグラノの灼熱を離れ、蒼真と凛花は北の高原を目指していた。
「次の土地は“リュミナの丘”っていうところらしいよ。天空の書庫があるんだって!」
凛花は旅商人からもらった地図を広げながら、目を輝かせていた。
「天空……っていうくらいだから、きっとまた変な場所なんだろうな。崖の上とか、浮いてるとか」
「うわー、それすっごく楽しそう!」
「……俺は高いとこ苦手なんだけどな」
蒼真がぼやくと、凛花がくすくす笑った。
旅の途中、ふたりは静かな高原の村「ミレス」で一泊することにした。
木造の宿屋と石造りの井戸、放牧された羊の群れ。
火山都市とは打って変わって、穏やかで、どこか懐かしさすら感じる村だった。
「いらっしゃい。旅のお方ですね?」
宿屋の老婆がにこやかに迎え入れてくれる。
ふたりが部屋で荷物をほどいていると、凛花がポツリと呟いた。
「ねえ……この村、ちょっとだけ、前に住んでた町に似てるね」
「……ああ。似てるな」
静かな夜の風が窓から入り込んで、ふたりの間に小さな沈黙を落とした。
その夜。
蒼真は村の井戸でひとり水を汲んでいた。
すると、後ろからふと声をかけられた。
「君が“記録を持つ者”か?」
蒼真が身構えると、現れたのは白と青の装束に身を包んだ青年だった。
見た目は20代前半、澄んだ瞳と整った口調から、旅の僧侶か学者のような印象を受ける。
「……誰だ?」
「名乗るほどの者ではないが、私は“記録守”の一人。
君たちに会いに来た。星の巫女と、その守人である兄へ」
青年は“ラシル”と名乗り、焚き火を囲みながら語り始めた。
「世界には、かつて“記録の巫女”が複数存在していた。だが、彼女たちはすでにほとんどが――忘れられた」
「忘れられた……?」
「“記録の力”を狙う者たちによって、存在ごと消された。
ヴァールのような、“記憶を喰らう者”によって、な」
ラシルは真剣な眼差しでふたりを見つめた。
「君たちが今持っている記録は、“最後の記録群”の一部。
もしそれが揃えば――この世界に隠された“真理”の扉が開かれると言われている」
「真理って……なんだ?」
「それは我々にもわからない。ただ、何か大きな変革と関わっているのは間違いない」
「そして、我々記録守は、その記録を守るために存在している。
この先、君たちはさらに多くの敵に狙われるだろう。
だが……仲間も、また現れる」
ラシルは懐から、古びた金属のペンダントを取り出し、凛花に渡した。
「これは“記録の共鳴器”。君の記録と同調すれば、他の“記録の欠片”を感知できる。
次の欠片の気配は――この北の高原を越えた“風渡りの塔”にある」
「……ありがとう、ラシルさん」
「私に礼は不要だ。だが、これだけは忘れないでくれ。
“記録”は、時に人を狂わせる。
お前たちが、“絆”を信じられなくなったとき……記録の力は暴走する」
その言葉を残して、ラシルは村の闇に消えていった。
翌朝、蒼真と凛花は再び旅立つ。
「ねえお兄ちゃん。絆が消えたら、記録が暴走するって、どういう意味なんだろう」
「さあな。でも――」
蒼真は凛花の小さな手を握りしめた。
「そうならねぇように、ずっと繋いでりゃいい」
「……うん!」
ふたりの歩みは、次の欠片が眠る塔へと続いていく。
その背には、小さな村の少年が静かに手を振っていた。
彼の中に、小さな憧れが芽生えていた。
“自分も、あんなふうに誰かを守れる存在になりたい”――と。
読んで頂きありがとうございます。
『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
ぜひ感想や応援などもらえるととてもうれしいです!
これからもよろしくお願いします!




