第19話 追手の影と凍れる谷8
記憶図書館の奥深く――
一般の閲覧者は立ち入れない、封印された扉の向こう側。
古代文字が刻まれたアーチをくぐると、空気が一変した。魔力と記憶が渦巻くような、肌にまとわりつく重さ。
「……ここが、記憶の源?」
凛花がそっと呟く。
まるで誰かの声が、壁の中から囁いてくるかのようだった。
「気を抜くな。何が出てきてもおかしくない」
蒼真が凛花の手を握る。兄の手は強く、しかし、どこか優しさに満ちていた。
中には、丸い石柱が円形に並んでいた。それぞれの柱の上には“記録球”と呼ばれる、光を帯びた球体が浮いている。
封印書庫の管理者である老人――“カストル”が静かに説明を始めた。
「記憶とは、本来“見る”ことを許されぬものじゃ。だが、巫女の力と意思があれば――記録は姿を成す」
カストルは、凛花の前にひとつの記録球を差し出した。
「この記録球には、“セリアの予言”が刻まれておる。汝が真に巫女であれば、それを読み解くことができよう」
凛花は、記録球に手を伸ばした。
指が触れた瞬間、球体が淡く光り出し、天井へと映像が浮かび上がる。
――そこに現れたのは、朽ちた神殿。
その中央に立つ、黒髪の少女。
そして彼女の周囲に、六つの星が光となって浮かんでいた。
『星の巫女は、六つの記憶を継ぎ、時を越えて再び目覚める。
彼女が記す記録は、世界を導く“最後の灯火”となるだろう』
その言葉とともに、凛花の胸に鋭い痛みが走る。
「……っ!」
「凛花!」
蒼真が支えようと駆け寄る。
記録球の光が収束すると、凛花の左腕に、淡く光る紋章が浮かび上がっていた。
カストルが目を細め、厳かな声で言う。
「それは“継承の印”。真なる巫女に与えられる第一の証……。君は、目覚めたのじゃ。星を継ぐ者として」
蒼真は黙ってその光景を見守っていた。
凛花は痛みを堪えながら、兄の方を振り返る。
「……こわく、ない。お兄ちゃんがいるから……」
その一言に、蒼真は小さく頷いた。
「俺がいる。だから、どんな力だって受け止める。お前が誰かに狙われるのなら、俺が何度でも立ち向かう」
その頃――
アステリアの別区画、地下にある黒市では、凛花の覚醒の気配を察知した“記憶狩り”の男たちが動き始めていた。
「……ついに出たか。“記録を持つ巫女”」
灰の教団に通じる地下組織、その名も“鏡の協会”。
彼らは記録を収集し、改ざんし、売買する闇の記憶屋。
「セリアの再来――か。ならば、次に狙うは、兄の記憶だ。巫女の“心の支柱”を折る、それが最も効率的な方法だろう?」
影の男が、にやりと笑った。
その夜。
月光祭の儀が始まる頃、凛花は再び夢を見る。
――深い水の底。
幼い自分と、蒼真の姿。
そして、その遥か上から伸ばされる、誰かの手――
『いずれ、選ばねばならぬ。記録を護るか、絆を守るか』
夢の終わりと共に、凛花は静かに目を覚ました。
そして、そばで眠る兄の背を見つめながら、そっと呟いた。
「わたしは……選ばない。どちらも、守るんだから」
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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