第2話 逃避行の始まり
静まり返った森に、かすかな風が吹き抜ける。
先ほどの戦いで倒れた教団の男たちは、蒼真の剣が触れた途端に、まるで霧のように消え去っていた。
「なんだったんだ、あいつら……」
蒼真は震える手で剣を見つめた。それは、金属ではなく光でできたかのような刃。
彼の意思に呼応して生まれた、守護の加護の象徴――“星剣”。
「……すごかったよ、おにいちゃん。剣、ぴかぴかだった」
凛花が顔を上げる。
恐怖に震えていた瞳には、いま確かな信頼と安堵の色が浮かんでいた。
「怖かったら言っていいんだぞ。俺が、絶対守るから」
「……ううん。怖いけど、でも……お兄ちゃんと一緒なら大丈夫」
その言葉に、蒼真の胸が少しだけ軽くなる。
けれど、状況は最悪だ。
見知らぬ世界、わけの分からない組織、自分たちを狙う理由すらわからない。
「とにかく、ここを出よう。人がいるところを探さなきゃ」
二人は、森を抜けるため歩き出す。
数時間後。陽は沈み、夜の帳が下りる。
空に浮かぶ双月の下、兄妹は森の端にある石造りの街へと辿り着いた。
そこは「トゥラン」と呼ばれる交易都市。だが、ただの田舎町にしては警備が異常に厳しい。
「……星詠みの情報が入ってる。警戒を怠るな」
街の門を見張る兵士たちの会話が、風に乗って聞こえてくる。
「くそっ、ここも危険かもしれない……」
蒼真は迷う。このままではすぐに見つかってしまう――そんなときだった。
「君たち、迷子かい?」
優しげな声が背後から響いた。
振り返ると、金髪の女性が立っていた。
背は高く、旅装をまとい、腰には使い込まれた剣が吊られている。
「私はルディア。傭兵だけど、子供に剣を向ける趣味はないよ」
ルディアは微笑んだまま、蒼真の剣の光を一目見てすべてを察したようだった。
「……君たち、教団に狙われてるね? それも、かなり危険な理由で」
「……どうして分かるんだ?」
「私も昔、星に選ばれかけたことがあってね」
その言葉に、蒼真は一瞬だけ気を緩めてしまった。
ルディアは提案する。
「この街を出るまでの間だけ、私が君たちを助けよう。代わりに、妹さんの力――“星詠み”について教えてくれないかな?」
蒼真は躊躇する。
けれど、このままでは凛花を守れない。
「……分かった。でも、俺たちの旅にずっとついてこられるのは困る」
「ふふ、潔いね。わかったよ。私は“導き手”でいい」
一時的な同盟が結ばれた。蒼真は心の中で何度も念じる。
「俺が守る」と。
夜明け前。三人は街の裏門を抜け、警備の目をかいくぐって外へ出る。
その途中、ルディアが言った。
「星詠みの力は、未来を垣間見る力。だが、それは“世界の理”に触れる力でもある。使えば使うほど、存在自体がこの世界に干渉してしまう」
「……どういうこと?」
「君の妹が“星詠み”の本質に気づいたとき、彼女はもう、ただの人間ではいられなくなる」
凛花は、兄の手をきゅっと握った。
「だいじょうぶ。おにいちゃんがいるもん」
蒼真は迷いなく言った。
「それでも、俺は凛花を人間として守る。妹として、家族として」
そのとき、凛花の瞳に星がまた一つ、灯った。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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