第18話 追手の影と凍れる谷7
雪深い山道を抜け、蒼真と凛花はようやく視界の開けた丘の上へと辿り着いた。
遠くには朝靄に包まれた都市の姿が浮かんでいる。
「……見えた、あれが“アステリア”だ」
蒼真が息をつきながら、腰を下ろす。
都市は三層構造になっており、中心部に大きな塔のような建物がそびえ立っていた。
「わぁ……高い……あれが、“記憶図書館”?」
凛花が目を輝かせて見上げる。
「そうだ。ラヴィスが言ってた、“記録の翻訳者”がいる場所だ」
アステリア――それは知識と自由の都市。各国の文献や魔道具が集まる中立都市であり、戦争を嫌う学者たちが自衛の結界によって都市を守っていた。
兄妹が門をくぐると、そこには露店と人々の活気が満ちていた。
果物を売る商人、街角で魔法小道具を披露する子どもたち、そして空を飛ぶ郵便鳥たちの群れ。
「なんだか……ロエンとはまた違うね。こっちは賑やか」
「それだけ、守られてるってことだな」
蒼真が周囲を警戒しながら歩いていると、ひとりの少年が声をかけてきた。
「おーい、旅人!道に迷ってるのか?」
兄妹と同じくらいの年頃。くすんだ金髪を風になびかせ、手には荷物をいっぱい抱えている。
「……あんた、案内できるのか?」
蒼真が軽く構えを見せると、少年は慌てて手を振った。
「ちょ、ちょっと待ってよ!俺は怪しい者じゃないってば!“案内屋”だよ。“エルド案内所”のエルドって名前!」
「……名前まで案内か」
「今、笑った?」
凛花が小さく肩を揺らし、蒼真が照れ隠しにため息をついた。
「今日は市場が“月光祭”で特別なんだ。夜には“記憶の灯火”って儀式もあるから、見るといいよ。きっと君たちにとっても、大事な夜になる」
その言葉に、蒼真がわずかに眉をひそめた。
「どうして、そう思う?」
「さあ……直感かな? もしくは、旅人の目に“何か”が映ってたのかもしれないね」
エルドはそれ以上詮索せず、軽く手を振って立ち去った。
そして夕刻。
兄妹は“記憶図書館”へと向かう。
回廊の奥、書庫を守る老人が、蒼真たちをじっと見つめていた。
「君たちは、記憶を探す者か……あるいは、“記録を紡ぐ者”か?」
その問いに、凛花は一歩前に出て、静かに答えた。
「わたしは……“記録を守る巫女”です。真実を知りたくて、ここへ来ました」
老人の目が、深く、ゆっくりと細められる。
「ならば、扉を開こう。記録は、選ばれし者にのみその姿を見せる」
書庫の奥――封印された区画が、光とともに開かれた。
だがその裏では、図書館の外で静かに動く影があった。
黒い外套を羽織った男たちが、何かを探すように、兄妹の足跡を追っていた――。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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