第17話 追手の影と凍れる谷6
――地下回廊を抜けた先に、凍てつく風が吹き込んできた。
蒼真と凛花は、雪に覆われた崖道へと辿り着いた。そこが、神殿の外れに隠された“霧の出口”だった。
「……ここまで来れば、いったん撒ける」
蒼真は息を整えながら、崖下へと続く獣道に視線を向ける。
遠くに薄く煙が立っていた。エルセリオの街灯か、それとも……。
「お兄ちゃん……!」
凛花が突然、蒼真の袖を強く引いた。
「来る……!あれ、追ってきてる……!」
――ゴォォッ……!!
冷気に包まれたはずの空気が、一瞬で灼熱に変わった。
炎が、回廊の出口を包むように噴き上がる。
現れたのは、一人の男。黒装束に、胸元には赤い仮面をかけた刺繍。
彼の背後には、燃えさかる“炎の羽”の幻影が揺れていた。
「……“灰の教団”か」
蒼真は剣を構えた。
男は無言のまま、片手を前に突き出した。すると、地面を這うように赤熱の炎が走り、ふたりを包囲するように広がる。
「……名を名乗れ」
蒼真が問うと、男は初めて口を開いた。
「名乗る価値はない。だが……任務名は“焔鴉”。君たちの“終焉”を見届ける者だ」
彼の手のひらに、円形の魔法陣が浮かび上がる。そこから迸るのは、獄炎のような黒い炎。
――“業炎の刻印魔術”。
蒼真が目を見開いた。
「刻印魔術だと……?こんな場所で使えば、辺り一帯が――!」
「逃げ場などない。巫女も、剣士も、“記録”も。すべて灰に帰す」
そのとき、凛花が前に出た。
「ダメ!この人……“本気”だ。全員、死なせるつもりで戦ってる……!」
凛花の目が淡く光を帯びる。
リネとしての血が、彼女に魔力の流れを感じ取らせていた。
蒼真は凛花を背に庇いながら、低く構える。
「逃げ道はある。奴の魔法が収束する前に、側面から崖下に跳び降りる――!」
「跳び……!?」
「大丈夫、着地先は雪。俺が守る。行くぞ、凛花!!」
焔鴉の魔法が爆ぜた瞬間、蒼真は凛花の手を強く握り、側面の崖へと跳んだ――!
――ゴォォォォォォッ!!
爆炎が回廊を包む中、ふたりの身体は雪煙の中へと落下していった。
数秒後、雪原に転がるように着地。
「っ……ぐ……!」
蒼真が衝撃を背負って受け止めたが、凛花に怪我はなかった。
「お兄ちゃん……!」
「平気……慣れてきた。……走れ!」
ふたりは獣道へと駆け出す。
その背後、焔鴉が崖上からふたりを見下ろしていた。
「逃げたか。だが、“刻印”はもう……」
彼の手の中に、淡く光る“火の種”のような結晶がある。それは、凛花が解放した記憶と共鳴していた。
「星の巫女。次に会う時は、お前の“心”から燃やそう――」
――こうして兄妹は、辛くも“霧の回廊”を脱出し、追跡者を撒いた。
だが、焔鴉の持つ“火の刻印”は、彼らの魔力に触れた証を刻み込んでいた。
次の目的地は――東の自由都市「アステリア」。
そこには、古代語の記録を解読できる“記憶図書館”があると、ラヴィスは告げていた。
次なる旅路の地にて、兄妹を待つのは、さらなる記録の鍵と、新たな出会いだった。
読んで頂きありがとうございます。
『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
ぜひ感想や応援などもらえるととてもうれしいです!
これからもよろしくお願いします!




