第16話 追手の影と凍れる谷5
ラヴィスに導かれ、蒼真と凛花は神殿の奥へと進んでいた。
月光の届かぬ地下回廊。霧が微かに立ち込めるその空間は、まるで世界の境界を越えるかのようだった。
「ここが……“霧の回廊”?」
凛花が震える声で尋ねる。
通路の石壁には、うっすらと古代文字が彫られていたが、そのほとんどは風化し読めなかった。
「この通路はかつて、記録守たちが“星の記憶”を守るために造った秘密の通路。今では使われなくなったが、血が導けば道は開かれる」
ラヴィスは凛花に一枚の銀色の欠片――「記憶石」を手渡した。
「君の中に宿る“記憶”が、この石を通じて封印を解く。道の先にあるものは……選ぶ覚悟を問う試練だ」
やがて行き止まりのような石扉が現れる。
中央には星の印。凛花が手を伸ばすと、光が走り、静かに扉が開いた。
「……開いた!」
その先に広がっていたのは、古びた円形の空間――まるで儀式の場のような空気。
祭壇のような台座がひとつ、中央にあり、その上には“もう一冊の記録の本”が静かに横たわっていた。
蒼真は警戒しながら周囲を見回す。
「……誰かが、ここにいた痕跡がある。最近だ」
床には、何かが焼け焦げたような跡。魔力の残滓がまだ微かに漂っている。
ラヴィスが静かに言った。
「かつてこの地には、“もう一人の巫女”がいた。
彼女は、記録の一部を封じるためにこの回廊へ足を踏み入れたが、戻ることはなかった」
凛花が台座に近づくと、本がふわりと浮かび上がり、彼女の前で開かれた。
その瞬間――光とともに、空間全体が変わった。
霧が晴れ、記憶の中へ引き込まれるように、凛花の足元がぐらりと揺れる。
見えてきたのは、ひとつの光景。
――戦火に包まれた神殿。
仮面をつけた者たちと、白衣の少女。少女は凛花に似ていたが、どこか儚く、憂いを帯びていた。
『記録は渡せません……これは、未来の巫女に託すと決めたのです』
『愚かな……ならば、貴様の記憶ごと焼き尽くすのみ――』
闇が少女を呑み込む寸前、彼女は台座の上に本を置き、最後の言葉を紡いだ。
『わたしの名は――セリア。
未来の“リネ”へ……どうか、この世界を……』
凛花が意識を取り戻すと、本は再び静かに閉じられていた。
そして、その表紙には――かすかに“リネ”の名が刻まれていた。
「……見たのか?」
蒼真の問いに、凛花は頷いた。
「うん……あの子も、わたしと同じ“巫女”だった。記録を守るために……ひとりで、戦ってた」
「……だからこそ、お前は生きなきゃいけないんだ。今度は、俺が守る」
蒼真の手が、凛花の肩に触れる。
彼の温もりが、凛花の震えを少しずつ和らげていった。
そのとき――回廊の奥、封印の扉の向こうから風が吹いた。
白い羽根が、ひとつ、ふわりと舞い落ちる。
「く、来る……!」
蒼真が剣を抜いた。
ラヴィスが言った。
「“彼ら”は記録の気配を追っている。……だがここにはもう、お前たちの痕跡も刻まれてしまった。急げ、“霧の出口”へ」
――そして、再び動き始める“白鴉の追跡”。
蒼真と凛花は、この地下回廊の奥にある脱出口――そして次の街“アステリア”を目指すこととなる。
だが、その出口で待ち受けるのは、ただの追手ではなかった。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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