第14話 追手の影と凍れる谷3
神殿の奥、“星の巫女の間”へと続く階段は、まるで凍てついた時間を下るようだった。
蒼真と凛花の足音が、氷の壁に反響して響く。薄明かりの水晶灯が、かすかに空間を照らしていた。
先を行くのは、記録守の長老「セイラン」と名乗った老女。
彼女の足取りは驚くほど軽く、まるでこの道が身体に染み込んでいるかのようだった。
「この“星の間”は、巫女の記録を封じ、同時に巫女の資質を識る場所。……あなたにとっても、避けて通れぬ場となるでしょう」
凛花は無言で頷いた。
やがて、重い石扉が音を立てて開く。
広がったのは、氷の水晶に包まれたドーム状の空間。
天井には星々の文様が彫られ、その中心に巨大な祭壇が鎮座していた。
その祭壇の奥に浮かんでいるのは――
「……これは、本……?」
氷に閉ざされた古文書。まるで氷の中で凍ったまま、時を止めたようなその本には、星と竜の紋章が刻まれていた。
セイランが静かに言った。
「これは“星の記録”――巫女の記憶が継がれる書。
過去に現れた巫女たちの残した言葉、そして未来を繋ぐ者への指針が刻まれております」
凛花が一歩、踏み出すと、祭壇の氷が音もなく割れた。
まるで彼女を待っていたかのように――本が宙に浮かび、淡い光が彼女の胸元に吸い込まれていく。
「……っ!」
凛花の体が、光に包まれた。蒼真が慌てて駆け寄ろうとしたその瞬間、セイランが手で制した。
「大丈夫。これは“記録の呼応”……彼女の内にある記憶と、本の記録が繋がるだけ。
……だが、彼女の“本当の名”も、そこで目覚めることになるでしょう」
光の中、凛花の意識はどこか遠く、深い場所に引き込まれていた。
見たこともない大地。夜空に浮かぶ星の紋章。
戦火の中、祈るように言葉を紡ぐ女性の姿――それは、自分と瓜二つの少女だった。
『あなたの名は、“リネ=ファルセリア”。星を紡ぎ、記録を継ぐ者。』
その声が胸に響いた瞬間、凛花の瞳が静かに光を灯した。
意識が戻ると、蒼真が心配そうに見下ろしていた。
「凛花、大丈夫か?」
「……うん。だいじょうぶ。……でも、名前が……」
凛花は自分の胸に手を当てた。
「わたし、“リネ=ファルセリア”って呼ばれた。……それが、わたしの“本当の名前”なんだって」
蒼真は一瞬戸惑ったが、すぐに頷いた。
「そうか……でも、俺にとっては“凛花”だ。それでいいだろ?」
「うん……ありがとう」
ふたりは、微笑み合った。
しかしその微笑みの裏で、セイランの顔にかすかな陰りが差していた。
「……本当の名が目覚めたということは、すでに“記録の裂け目”が近づいている証。
灰の者たちが動き出すのも、時間の問題でしょう……」
そしてその頃。
エルセリオの外れ――凍てついた湖の上を、仮面の者たちが静かに進んでいた。
「巫女が目覚めたか。では“封印”を破り、記録を我らの元に――」
氷の上に響く足音は、やがて町の影へと飲み込まれていく。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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