第13話 追手の影と凍れる谷2
――冷たい風が、緩やかに頬を打つ。
雪山を越えた先、谷あいに広がる白銀の都市――それが、雪の民の街“エルセリオ”だった。
氷の結晶で装飾された建物。
透き通るような光の柱が、空に向かって立ち並ぶ。
静謐と清廉が混ざり合ったような雰囲気に、蒼真も凛花も言葉を失っていた。
「……すごい。まるで、氷の精霊が造った街みたい」
「ここの建築、雪だけじゃない。氷晶石っていう特殊な鉱石が使われてるらしい」
案内役のラヴィスは、ふたりの横を歩きながら口元だけで微笑む。
「この街は“記録の民”の最後の拠点のひとつ。滅びた帝国より前から存在している。
そしてここに――“星の巫女”についての、最古の記録が残されている」
街の中央、塔のような神殿――《氷の記録院》。
薄い氷のカーテンをくぐって中へ入ると、白衣を纏った人々が静かに書を整理していた。
「この子が、星の巫女の継承者……?」
「まだ幼いな。しかし、確かに気配が……」
低くざわめく声に、蒼真が自然と凛花の前に立つ。
だがラヴィスは静かに制した。
「彼らは“記録守”と呼ばれる者たち。害意はない。……むしろ、君たちを歓迎している」
凛花は小さく頷き、前へと一歩踏み出す。
「……わたし、自分のことを知りたいんです。なぜ、この力を持っているのか。
どうして、世界に追われるのか」
その声に、記録守のひとりがふっと目を細めた。
「ならば、“星の巫女の間”へ。……そこに、答えの一端があるだろう」
その夜。兄妹はエルセリオの宿で、一夜を過ごしていた。
窓の外には星が瞬いている。
雪は止み、静けさが街を包んでいた。
「……ここ、安心するね」
ベッドに腰かけて、凛花がぽつりと呟いた。
蒼真はその隣で、地図を見ながらぼんやりと考えていた。
「なあ、凛花。俺たち、どこまで行けると思う?」
「……え?」
「こうして、旅を続けて。逃げながら、追いながら。……最後まで、一緒にいられるかな」
その問いに、凛花は少しだけ考えて――
「いられるよ」
と、はっきり言った。
「だって、お兄ちゃんがいるもん。どんなことがあっても、わたし、絶対お兄ちゃんのそばにいるよ」
その言葉に、蒼真は微笑む。
「……そっか。じゃあ、俺も負けられないな」
外では静かに雪が降り始めていた。
明日、ふたりは“星の巫女の間”へ向かい、また一歩、真実に近づくことになる。
――だがその夜の深い闇の中。
街の外れに、ひとつの影が立っていた。
ローブに身を包み、白い仮面をつけたその者は、囁くように呟いた。
「星の記録は、もう間もなく我らの手に……」
そして、風が再び、冷たく吹いた。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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