第11話 星の記録者と静かなる村4
神殿での出来事から一夜明けた朝。
ロエンの村には、いつもと変わらない穏やかな空気が流れていた。
けれど、蒼真の中には微かな焦燥があった。
“凛花の力”が明確な形をとって現れた以上、ここに長く留まるわけにはいかない。
「凛花、今日中にいろいろ準備しておこう。食料と薬草、それと……地図が手に入るといいけど」
「うん、わかった。あ、あとお兄ちゃん、リュックの紐ほつれてたから直しておいたよ」
「……ありがとな」
にこっと笑う妹に、蒼真は頭を撫でながら思う。
(この小さな手が、世界の鍵だなんて――信じたくない。けど、それが現実なんだ)
午前中、ふたりは村の小さな市場へと足を運んだ。
土の匂いと焼きたてのパンの香り。子供たちの笑い声。どこか懐かしさを感じる風景だった。
「いらっしゃい! 旅の支度かい? 昨日のお嬢ちゃん、すごい可愛いって評判だよ」
パン屋の奥さんがにこにこしながら袋を手渡してくれる。
「ありがとうございます。……できれば、長持ちする干しパンも少し」
「任せときな! それと……これ、村の古地図。古くてボロいけど、少しは役に立つかもしれないから持ってって」
「……いいんですか?」
「いいのよ。村の恩返しってやつさ。神殿に入れたの、あんたたちが初めてだったんだろ? 不思議なこともあるもんだ」
市場の奥で、凛花は何やら小さな布を手に取っていた。
「お兄ちゃん、見て。これ、お揃いの色なんだよ」
それは、青と白の刺繍が入ったお守り袋。
「ふたりでお揃いにしよ? 旅のお守り。ね?」
蒼真はしばし黙ってそれを見つめ、静かに頷いた。
「……そうだな。大事にしよう」
村の広場の隅、レアンが丸太に腰を下ろしてふたりを待っていた。
「……準備、できたみたいだな」
「うん。もうすぐ出るよ。レアン、本当にいろいろありがとな」
蒼真の言葉に、レアンは首を横に振る。
「俺の方こそ、感謝してる。お前たちを見て……俺、少しだけ世界が広くなった気がする」
凛花はぽんっとレアンの手に、自分のお守りと同じ模様の小さな布を握らせた。
「これは、レアンくんに。きっとまた、どこかで会える気がするから」
「……うん。俺も、そう思う」
風が吹いた。春のように優しく、でもどこか新しい始まりの匂いが混じっていた。
蒼真は、荷物を背負い直して前を向く。
「行こう、凛花。次は――“雪の谷”だ」
凛花もまた、ひとつ頷いた。
ロエンの村は、今日も穏やかだった。
でも、ほんの少しだけ、その空気の中に“旅立ち”の気配が混じっていた。
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『星の守り人 〜妹と歩む異世界の旅〜』は別の小説投稿サイトにて初めて投稿したものです。
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